社説:SNSの誹謗中傷 制度改正へ慎重議論を

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 テレビ番組中での言動に対し会員制交流サイト(SNS)で激しい誹謗(ひぼう)中傷を受けた若手プロレスラーの女性が、遺書のようなメモを残し死去した。自殺とみられる。これが契機となり、インターネット上の投稿者の特定を容易にするなど、悪意ある投稿を抑止するために制度を改正する動きが加速している。

 匿名による言葉の暴力はヘイトスピーチやさまざまなハラスメントと同様に人権侵害だ。女性を死に追いやったとすれば極めて深刻な問題である。悲劇が繰り返されることのないよう誹謗中傷の抑止、被害者の救済に向けた対策が欠かせない。

 ただし、投稿者情報の開示は「表現の自由」や「通信の秘密」を損なう懸念もある。被害者の人権保護と投稿者の表現の自由をどう両立させるか多様な視点から議論を深め、慎重に制度作りを進めることが必要だ。

 ネット上の誹謗中傷による被害の相談は急増している。総務省が設置する窓口には2019年度、約5千件の相談があった。10年度比で約4倍になった。この状況は放置できない。

 現在のプロバイダー責任制限法は、損害賠償を求める被害者がネット接続業者(プロバイダー)などに投稿者情報の開示を請求できるとされている。だが「権利侵害が明らかでない」などの理由で大半は開示されないのが現実だ。

 開示を求めて裁判手続きに入れば費用が膨らみ、時間もかかる。これでは被害者側の負担が大きく、救済につながりにくい。もっと被害者の立場になった仕組みが求められる。

 高市早苗総務相は制度改正に関し、年内に案を取りまとめる方針。被害者が求めた場合に迅速に情報を開示するための方策を探り、投稿者の氏名などに加え電話番号を開示対象にすることも検討する。

 あくまで被害者救済のための制度である。政治家をはじめとする公人、企業・団体などが被害を受けたと主張して正当な批判や告発を行う人を特定し、圧力を加えるようなことは容認できない。そうした乱用を避けるためにも、どんな場合に情報開示するのか、きめ細かくかつ明確な基準を示すべきだ。

 女性の死を巡っては番組を制作、放映したフジテレビが出演者や関係者への聞き取り、制作資料や素材VTRの確認、SNSの反応の調査などを行うとしている。海外でも類似の番組に絡み、出演者の自殺が相次いでいる。フジテレビには、なぜ女性が死を選ぶことになったのか経緯をしっかり検証し、結果を公表する責務がある。

 SNSはその便利さから既に社会に浸透している。その一方で、新型コロナウイルス感染症の流行に伴うデマ情報が飛び交うなど問題が相次いでいる。便利なはずのSNSが、再び不幸な結果を招かないよう一人一人が責任を自覚して利用することが求められる。