北斗星(6月7日付)

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 秋田市の聖霊高校ハンドベルクワイアは2003年、横浜市で公演を行った。その折、拉致被害者家族会代表の横田滋さん、早紀江さん夫妻に部員35人を前に講話をしてもらい、一緒にハンドベルも演奏した。前年の日朝首脳会談後、演奏を収めたCDを会員に贈った縁だった

▼滋さんは自らの経験を語り、「皆さん、事故や事件に遭わないよう気を付けて」と呼び掛けた。部員だった秋田市の照井明日香さん(34)は講話の後で夫妻と握手した時のことが忘れられない。滋さんは終始にこやか。早紀江さんからは「お母さんを大事にしてね」と声を掛けられ涙があふれた

▼夫妻の著書に、滋さんの手帳に記された当時の日程が転記されている。各地での講演やマスコミの取材で多忙な中、クワイアへの講話の日と、演奏会を聞いた翌日の2日間は他に予定が入っていない

▼夫妻の長女めぐみさんが新潟市内で行方不明になったのは1977年11月。めぐみさんは中学1年だった。首脳会談で北朝鮮は、拉致被害者5人の生存を認めた一方、めぐみさんら8人は死亡と伝えた

▼記者会見で号泣する滋さんの姿を記憶している人は多いだろう。その後、めぐみさんのものとされた遺骨は別人のものと判明。滋さんは2007年に代表を退いた後も、長女の生還を信じ運動を続けた

▼滋さんが87歳で亡くなった。どんなに無念だったことか。照井さんの「せめて早紀江さんには明るい知らせが届いてほしい」という言葉に同感だ。