北斗星(7月3日付)

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 ゆったりとした流れを眺めていると心が和らぐ。「母なる川」。雄物川の川べりでそんな言葉を思い浮かべた。だが川はいつも優しい母とは限らない。過去何度も氾濫し流域に被害をもたらしてきた

▼この川は「夜叉(やしゃ)の川」ともいわれた。家や田畑などをのみ込む氾濫の恐ろしさからこう呼ばれたのだろう。戦後間もない1947(昭和22)年は豪雨が県内を襲った。雄物川の洪水などで人々の命まで奪われた

▼河原が会場の「大曲の花火」は戦中の中断などを挟んで終戦翌年に再開。洪水の年に再び中止となった。花火好きの多い大曲の人たちはめげなかった。次の年には10万人超を集め成功させた。さすが花火の街だ

▼以来絶えることなく続き、昨年は来場者約75万人(主催者発表)の有数の大会だ。この夏も大輪の競演がある。花火師もファンも、そう信じていたはずだ。だが新型コロナウイルスの影響で開催見送りとなった

▼洪水の年に次ぐ大会のない年となる。それでも開催予定だった8月29日は場所と時間を知らせず花火を打ち上げるという。これと別に大仙市内の小中学生を励ます花火も予定。110年の長い歴史で培った「花火の力」がこの街にはあるからなのだろう

▼「一つ一つがかけがえのない思い出」。物心ついた頃から見てきた地元出身の30代女性が話す。この女性のように、ファンや大会に関わる人の数だけ大切な思い出があるに違いない。また一つ思い出の増える日が再び来ると信じている。