社説:県内戦争遺跡 戦禍の記憶を次世代に

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 戦争を体験していない世代が年々多数を占めていく中、県内の「戦争遺跡」をまとめた書籍が刊行された。これを機に、戦争の記憶を次世代につなぐ身近な戦争遺跡に目を向けたい。

 戦争遺跡とは一般に、近代の戦争に関わる遺跡や遺構をいう。研究者や市民団体でつくる戦争遺跡保存全国ネットワークは「近代日本の侵略戦争とその遂行過程で、戦闘や事件の加害・被害・反戦抵抗に関わって国内外で形成され、かつ現在に残された構造物・遺構や跡地」と定義している。

 国や県、市町村の文化財に指定・登録する動きが近年、全国で広がっている。しかし、ネットワークによると、戦争遺跡全体からすれば指定・登録された数はごく一部にとどまり、昨年8月時点で本県を含む5県ではまだ文化財指定がない。

 そんな中で注目すべきは、県内に残る戦争遺跡を調べ上げた「秋田県の戦争遺跡」(県戦争遺跡研究会編)が出版されたことだ。元小学校教諭で地域学習や平和教育に尽力し、昨年2月に亡くなった男鹿市の渡部豊彦さん、秋田大学教育文化学部の外池智教授(社会科教育学)が中心になって2018年に研究会を立ち上げ、戦争遺跡のリストアップや調査を進めてきた。

 強首陸軍演習場跡(大仙市)や船越防空監視哨跡(男鹿市)など13市町の49遺跡を取り上げ、それぞれに現場の地図や写真、解説文を付した。身近な戦争遺跡を知る上で格好の案内役となる一冊だ。

 外池教授は「この本を入り口として、興味を持った遺跡にぜひ足を運んでみてほしい」と話す。学校の授業などで積極的に利用されることを期待したい。

 県内の戦争遺跡は、戦時中の痕跡を直接残すものが少なく、戦後に建てられた石碑や記念碑が多いのが特徴という。研究会は、これらについても戦争の歴史を伝える重要な役割を果たしているとして取り上げている。

 特高警察による思想弾圧「蠍座(さそりざ)事件」で犠牲となった俳人加才信夫(1946年没)の句を刻む大仙市の石碑など、戦後に建てられたものであっても戦争の陰惨さを静かに伝える碑は県内各地にある。戦禍を知るよすがとしてそうした存在に光を当てた意味は大きい。

 本書は副題を「次世代を担うあなたへ」としている。文字通り、戦争の記憶を若い世代へ継承したいという強い思いが込められている。

 戦争放棄は現憲法の大きな柱だが、戦争を体験した人たちは高齢化が進み、直接話を聞く機会は極めて限られているのが現実だ。そうした中で、直接目にし、手で触れることもできる戦争遺跡から若い世代が学び取れることは少なくない。

 戦争遺跡が、教科書に記された歴史の単なる一項目ではなく、身近な出来事としての戦争に目を向ける契機になることを期待したい。