社説:文化庁の日本遺産 知名度を高め活用図れ

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 文化庁の「日本遺産」認定事業が本年度、目標の100件を超え、累計104件となった。有形・無形の地域の文化財を組み合わせて魅力を発信し、観光振興などにつなげるのが事業の狙い。新型コロナウイルス感染が拡大する中であっても、各自治体は日本遺産の知名度を高め、観光振興に結び付く戦略を練り直すことが求められる。

 日本遺産は、地域の文化財や伝統芸能を「ストーリー」としてまとめ、観光振興などで地域活性化を図る制度。縄文時代から現代までの多様な地域文化を網羅、テーマは神社仏閣や伝統芸能から郷土料理までと多彩だ。その発想は、文化財の普遍的価値や保護体制に重点を置く世界遺産とは基本的に異なる。

 本県関係は秋田、能代、男鹿、由利本荘、にかほの5市を含む16道府県48市町にまたがる「北前船寄港地・船主集落」の1件のみ。このほか「阿仁マタギ」(北秋田市)と「おくの細道」(にかほ市など)については関係自治体が本年度まで3年連続して申請したが、認定されなかった。とはいえ貴重な財産であり、今後も積極的に観光振興などに役立ててほしい。

 文化庁が今年1月に実施したインターネット調査では3割が「日本遺産を聞いたことがない」と回答。情報発信が不十分な実態が浮き彫りとなった。さらにコロナ禍の直撃により観光客が落ち込み、東京五輪・パラリンピックの延期で、期待していた海外からの観光客も今年は頼りにできない状況となった。

 文化庁は地域振興への活用が不十分な場合、認定取り消しなどを検討。観光客の受け入れ体制づくりが進んでいない地域もあり、てこ入れが必要と判断した。しかし国内経済が打撃を受けている現状を見れば、厳し過ぎる対応だろう。もっと柔軟な運用を求めたい。

 地域では、過疎化や少子高齢化で文化財保護の担い手が不足し自治体財源も減少。その中で文化財の観光への活用は人材育成と財源確保にとって有効な手段だ。一方で誘客を強調する政府や自治体に対し、文化財保全がおろそかにならないかと懸念する声もある。まずは地域住民が遺産の価値をしっかりと認識し、愛着を持てるような取り組みを進めることが大切だ。

 本県5市を含む「北前船―」も十分に活用されているとは言い難い。数ある日本遺産の中で、日本海をダイナミックにつないだテーマ設定は最もスケールが大きいと評価された。そのことを改めて思い起こし、北前船文化の活用を提唱した本県が旗振り役となって、青森や山形など近隣と連携を密にしながら積極的に活動してもらいたい。

 地域の財産に光を当て新たな価値を加えて広くアピールする日本遺産の意義は大きい。コロナ禍で観光客の動きは鈍っているが、感染収束後の旅行需要の回復も見据え、各地域は遺産に一層磨きを掛けてほしい。

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