北斗星(8月1日付)

お気に入りに登録

 長崎の小さな島から北海道の開拓地を目指す。若い夫婦の一家による船と鉄路の長い旅、夫の夢は牧場主になることだ。山田洋次監督作「家族」は1970年の日本を舞台に物語が進む

▼当時の日本は高度経済成長の繁栄を謳歌(おうか)する一方、公害問題が深刻化し、コメ余りで減反も始まった。「泥まみれでうんと稼いでいるのに耕作1年で減反になった」。列車の中、こう話す東北なまりの男性が映画には登場。カメラは時代の「影」も捉える

▼旅の途中で一家は大阪万博会場の入り口から太陽の塔を眺める。埋め尽くす人の波、期間中の入場者は6400万人を超えた。テーマは「人類の進歩と調和」。これに異を唱えたのが芸術家岡本太郎だ

▼万博は進歩主義を掲げる。その思想に挑み、進歩とは程遠い「ベラボーなもの」、高さ約70メートルの塔を生み出した。人の心を揺り動かす何かとてつもないもの、「何だ、これは!」と驚きをもたらす芸術の力。そんな意味でこの語を使っているようだ

▼秋田市立千秋美術館では現在、「岡本太郎展 太陽の塔への道」が開催中。塔を構想するデッサン、中を精密に再現した模型が並ぶ。57年冬に本県を訪れて撮ったナマハゲやかまくらを作る少女の写真、たぎる命を感じさせる原色の絵画など盛りだくさんだ

▼新型コロナウイルス感染拡大の報に接するたび、不安が増して心身も疲れ気味になる。そんな時、岡本の放つ「ベラボーなもの」に触れてみる。揺らぐ心が少し強くなる。