近未来の日本の姿?「浮遊邸」制作モデラーが投げかけた“空に住む理由”

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[浮遊邸-墨吉雲上2丁目33番 斉藤邸-]完成形 制作・画像提供/さいそう氏
[浮遊邸-墨吉雲上2丁目33番 斉藤邸-]完成形 制作・画像提供/さいそう氏

 昔ながらの長屋に「浮遊装置」を配備して、空で暮らす。そんなインパクトのある精巧なジオラマを制作したのがモデラーのさいそうさん(@Soheiheihei)。これまで、オリジナルミキシング作品を軸にガンプラなど、さまざまな作品を作り出してきた同氏だが、ジオラマは今作が初めてだという。一体なぜこのような作品が誕生したのか、そこにはあるメッセージが込められていた。

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■空飛ぶ船とジオラマを作りたいという願望がキッカケ

――昔ながらの“長屋”の一部が空に浮かんでいる代表作「浮遊邸」ですが、どのような発想で本作を制作しようと思ったのですか?

「普段の作品作りはオリジナルミキシング作品がほとんどですが、始まりは作品のデザインというよりは、何か使ってみたい技術や作ってみたい題材が目的としてあって、そこから派生して作品ができていくことが多いです。『浮遊邸』でいうと、空飛ぶ船を作ってみたいから始まり、でもジオラマにも挑戦してみたい…、なら両方合わせて作ってしまおうみたいな感じでした」(さいそう氏/以下同)

――「空飛ぶ船」が「家」になったきっかけはどのようなものだったのですか?

「正式な作品名は「[浮遊邸-墨吉雲上2丁目33番 斉藤邸-]」というのですが、墨吉という地名はツイッター上で開催された『墨吉町忌憚』という架空の町(墨吉町)を舞台にした模型をみんなで作って楽しもうというWebコンペに由来します。
 コンペの趣旨として架空の町を舞台に模型を作るというのがあったので、いつか作ってみたかった空飛ぶ船とジオラマをごちゃ混ぜにしたら面白いものができそう!と思いついて、そこからは色々イメージが湧いてきました」

――制作しながらどのようなストーリーをイメージしていったのですか?

「『バブル景気は未だ弾けず、人口増、不動産価格高騰は止まらない。地上に土地を持つことが出来なかった庶民は居住地を空に移すほか生きる道はなかった。そんな斉藤家は家族四人で今日も元気に楽しいスカイライフを送るのである…。』というのが簡単な設定です。当初は、特に深く考えずに作り始めたのですが、作りながら作品としてのリアルさを出すために現実社会でもあるような問題をイメージして設定に盛り込んでいったら面白いのではないかと思い、結果的にこのような形になりました」

■技術の進歩で空に住めるのに、なぜ浮いてる家屋が長屋なのか

――そう聞くと余計になにか、日本社会にも通じる背景を感じます。

「ロンドンでは住宅費の高騰によって船上生活者が増えているというニュースを見たことがあって、それもヒントに膨らませていきました。
 日本では、今でも都心の人気のあるエリアに個人で土地を持つのはとてもじゃないけど難しい。だからその利便性を大勢でシェアするためにマンションがどんどん建っていますし、いずれそのマンションを建てる土地がなくなってきたら、最終的にはスペースコロニーに移住みたいな時代が来てもおかしくはない。

 また、いくら科学技術が進歩していってその恩恵を受けることができたとしても、生活の彩りとしての部分、具体的には娯楽など生きていく上で必ずしも必要でないものは、結局経済的な格差が如実に表れていく。例えば、昔は、車は高級品だったけど今ではみんな乗ってますいる。でもその車は、価格や性能は比べたらピンからキリまでものすごい差がある。そういう部分を作品に落とし込んでいけたら面白いかなという思いもありました。

 『浮遊邸』は、住宅を空に飛ばす技術が一般化した時代、家だけでなく、犬小屋だって飛ばしちゃう。土地を購入することに比べたらかなり安く済ませることができるんだけど、結局家屋の部分は普通にお金が掛かるので、新築や新しめの家ではなく、中古で買った長屋の一部分を強引に乗せているといった感じです」

――煙草を吸う女性、ベランダで外を見る男の子など一家の人々の生活も細かく描かれています。

「空飛ぶ長屋(の一部)という限られた空間の中で、貧しくも逞しく生きる家族の営みやペットの暮らしを凝縮して表現出来たら面白いかなと思い、そこからイメージを膨らませていきました。この『浮遊邸』の家族は、夫婦と子ども2人(姉弟)の4人家族+愛犬。お父さんは朝からひと仕事終えて窓辺で休憩中。お母さんは日頃のストレスを発散するために火気厳禁の船底の機関部で一服中。お姉ちゃんは毎朝の日課で屋根の上の鶏小屋から新鮮な卵をもらいに。多感な時期の弟君はベランダでたそがれています。そのほかにも本邸に居座った野良猫と空飛ぶ犬小屋につながれた愛犬との対立関係など、小ネタをちりばめています。
 こういう細かい設定などもあるのですが、それは気にしないで、見た人がそれぞれ感じ取って楽しんでもらえたら自分的にはうれしく思います」

■心がけているのは、作品としてのまとまり

――本作制作で一番のこだわりは?

「ジオラマってある瞬間や空間を切り取って表現するのが主で、そうすると大体は四角い舞台に切り抜いて、その舞台で色々表現していくことになると思うんです。でも、そういう従来通りの舞台を切り抜く方式ではなく設定で独立した空間として分離させることができたらジオラマとしては新しい表現になるのかなという思い制作していました。

 フルスクラッチした家屋部分の家屋側面の長屋を一部解体して露出した木材のむき出しの断面部分には苦労しました。最終的には建築模型店に行って建築模型用の木材を使ってスケールに合わせた木目を全部手で彫って何とか良い感じになりました。ちなみに、使用キットに関してはこれというのはなく、最初に自分のイメージをCGソフト上で簡易的に作り、それに合わせて家屋部分はスチレンボードやプラ板プラ棒、建築模型用木材などを使ってフルスクラッチ、船底の機械部分は飛行機や戦車のプラモデルのジャンクパーツを組み合わせてキットバッシュしています。他にも百均で買ったミニボトルをタンクにしたり、いろいろな素材を組み合わせて作っています」

――キットは使わず、細かい表現までご自身の手で行われているのですね。そんなさいそうさんのモデラーとしてのこだわりはどんなことですか?

「作品としてまとまっているというのを一番大事にしています。例えばある一部分をものすごいこだわって作ったとしても、作品としてまとまっていなければその部分も立ってこないですし、必要な部分に必要な労力を入れていくというのは意識しています」

――最後に、さいそうさんにとって模型とはどのような存在ですか?

「私は、普段はCMやMVなどの広告のCGを作る仕事をしています。幸運にも自由に楽しく仕事させていただけていますが、とはいえ仕事なのでやはりいろいろな事情が重なって、お客様ありきのものを作ることが多いです。そんななか誰からも制約を受けないし、ある種、自分は実在しない『さいそう』というネット上の存在なので、失敗しても関係なくプレッシャーもない。そんな自由な創作活動ができる自分にとっての良い表現媒体に今はなっているかなと思います。なにげないキッカケで作り始めましたが、今となっては模型で経験したことが仕事にも活かせたり、その逆もあったり。仕事にもいい影響を与えてくれているので、始めて良かったなと思っています」