社説:河井夫妻初公判 政治不信を一層強める

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 国政選挙が舞台となった大規模買収事件は一体、どこまで真相が解明されるのか。昨夏の参院選広島選挙区を巡り、公選法違反の罪で起訴された現職国会議員夫妻の公判が東京地裁で始まった。

 夫妻は衆院議員の河井克行前法相と案里参院議員=いずれも自民離党。法務行政の元トップが買収などの罪に問われるという異例ずくめの公判だ。

 起訴内容は、新人候補の案里被告への票の取りまとめを依頼、地元議員ら100人に現金計2900万円余りを配布したなどとされる。最大の争点は現金の趣旨だ。初公判で夫妻は配布をおおむね認めたが、買収の趣旨は否定、無罪を主張した。

 公判では今後、買収の相手とされる地元議員ら最大で約120人を証人尋問する。買収との認識があったのかどうかなどをただすためだ。一部の人については東京地裁と広島地裁をモニターでつないで行う。

 初公判で弁護側は公判を打ち切る公訴棄却を求めた。検察が捜査で有利な供述を得るため、現金を受け取った側の刑事処分を見送る違法な「裏取引」をしたというのが理由だ。

 司法取引は贈収賄や経済犯罪などに限定され、公選法違反は対象外。主張通りだとすれば、検察は刑事手続き上の適正さを欠いていたことになる。

 買収事件では受け取った側も罪に問うのが一般的だ。10万円で起訴された例もある。だが検察は100人全員の刑事処分を見送った。1人で200万円を受け取った元県議会議長もおり、起訴、不起訴の決定をしなかったこと自体、処分の公平性に疑問を抱かせる。

 指摘しなければならないのは、捜査が適正であることを立証する重大な責任が検察にはあるということだ。検察は捜査に基づく事実を明示し、取引はなかったと証明する必要がある。

 克行被告から現金を押し付けられたり、後に返却したりした人もいるとされる。検察は個々の事情を見極め、改めて起訴、不起訴を決定、処分の公平性を示すべきだろう。処分見送りには地方の検事正や元判事をはじめ、地元広島からも疑問の声が浮上。こうした声を検察は重く受け止めなければならない。

 初公判で夫妻は「皆さまにご迷惑をお掛けし深くおわびする」などと述べた。克行被告は菅義偉官房長官を慕う議員グループの中心的人物だが、菅氏は会見で「個別の事件なのでコメントは差し控えたい」と述べただけだった。

 自民党本部は参院選公示前、夫妻側に資金1億5千万円を提供。その8割に当たる1億2千万円が政党交付金だった疑いがある。それが大規模買収事件の引き金にならなかったのかどうか。異例の事件の初公判にもかかわらず、夫妻と菅氏の言葉は疑念の払拭(ふっしょく)からは程遠い。こうした政治家の姿勢は国民の政治不信を一層強めるだけだ。

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