「怒られる覚悟で…」テレ東“10人の突破者“が集結、異彩放つ新部署のたくらみ

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伊藤隆行プロデューサー(C)テレビ東京
伊藤隆行プロデューサー(C)テレビ東京

 テレビ東京の制作局に通称「伊藤部」が立ち上がった。率いるのは『モヤモヤさまぁ〜ず2』『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』などヒットバラエティを手がける伊藤隆行プロデューサー。メンバーには『ゴッドタン』の佐久間宣行Pをはじめとする“癖が強すぎ”な10人のプロデューサーがそろう。テレビ離れが叫ばれる今こそ、テレビ業界にはびこる既成概念に囚われないやり方で、新たな収益を生み出そうというのが新部署のミッションにある。コロナ禍でバラエティ番組にも変化が求められるなか、気鋭のプロデューサーたちは一体何をもくろんでいるのか。伊藤Pに聞いた。

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■「視聴率は低いけど話題はスゴイ」、テレビ局も無視できなくなってきた事実

 コロナ禍で、バラエティ番組の制作現場にも厳しい制約が課せられている。だが、それ以上に変化したのは「選ばれる番組とそうでない番組の差が鮮明になった」と、語るのは「伊藤部」改め、制作局内に4月に新設された「クリエイティブビジネス制作チーム」を取りまとめる伊藤隆行プロデューサーである。

 自粛期間中、Netflixから韓国ドラマ『愛の不時着』のヒットが生まれ、地上波ドラマでは『半沢直樹』(TBS系)がしっかり結果を出している一連の動きをみて、「世の中が流行に対して、これまで以上に敏感になっている」という。伊藤プロデューサーは話を続けた。

「何かに特化して、狭めて作られたものは、どこにフォーカスが当てられているのかがわかりやすい。今はそんな深さが求められながら、表現としてはメジャー感があるものから大ヒットが生まれていると思います。癖が強くても、見たら裏切らない番組というのが、コロナ禍のヒット番組に共通しています」

 そもそも、視聴率という基準だけで人気が測られる時代ではもうないのかもしれない。そんな意識が、この新部署ではすでに共有されている。

「テレビ局内では、一面しか見ない部分も確かにあります。視聴率が良かったとか、事故がなかったとか。でも、『あれスゲー、ヤバイ面白い』といった外からのザワつきが、それを壊すようにもなっています。視聴率は低いけれど、話題はトップになっていることに(テレビ局も)無視できなくなっているのです」

■「納品して終わり」のテレビ制作、この常識を変える

 新部署でも、モノづくりにおける「攻めの姿勢」は変えない。しかし、明らかにこれまでとは違うことは、「地上波の番組を60分作って、納品してそれで終わりを止めること」だという。実は、これはテレビの世界ではまだまだ革新的な試みでもある。なぜなら制作現場のプロデューサーは、地上波でヒットする番組を作ることだけに集中してきたからだ。

 基本的に、番組のスポンサーを自ら見つけることや、作った番組を売ること、番組のブランディングを考えることは、他部署に任されている。ガチガチの縦割りの組織なのである。

 過去にはもちろん例外はあった。たとえばテレビ東京では、番組と連動したライブイベント『ゴッドタン マジ歌ライブ』なども企画され、プロデューサー自らが多方面に仕掛けることもあった。それを「伊藤部」では、恒常的に売上に直結するセクションと組みながら進めていく。ここに新しさがあるのだ。


■企画から放送までわずか1ヵ月、業界の常識を覆すスピード感も武器

 10人のプロデューサー集団を、新部署名にちなんで「クリエイティブ動物園」と名付ける伊藤P。自身は「ライオン」、ニッポン放送でラジオパーソナリティまでこなす佐久間Pは「虎」といった具合に、10人ひとりひとりを動物に例え、「顔が見える」企画の営業資料も作っている。予算規模よりも重要視しているのは、「既成概念に囚われない仕事を年内にいくつできるか」ということだという。

「テレビ局の殻を破り、意味のない垣根を感じ過ぎないこと。もともと組織の枠にハマっていないようにみえるメンバーが集まっていますから、平気な顔して次々と企画書を出してくる(笑)。自分も20案件ほど企画を出していますよ」

 すでに集まった企画数は74案件を超える。Netflixでも人気のグルメ番組『ハイパーハードボイルド グルメリポート』を手がけた上出遼平Pからは、テレビという想定を度外視したかのような「音」をテーマにした番組が、民放初の幼児向け番組『シナぷしゅ』の工藤里紗Pは、主婦でありママでもある目線を活かして社外の雑誌の編集者、サブスク提供企業とタッグを組んだ企画が、まもなくローンチされるという。

 スポンサーニーズに即対応できるスピード感も大事なことだと伊藤Pは考える。

「8月8日にオンエアされた『知らなきゃ人生損してる!?となりに潜む、革命家』は、企画から放送までわずか1ヵ月。こんなスピードは、今までだったらまずありえないんですよ。でも、「営業局から『コロナ禍で生活スタイルが大きく変わった昨今を見つめるテーマなら売れる』と要請があって、すぐに取り掛かりました。そういうテレビ制作のセオリーも取っ払いたい」

 メンバーから企画募集を1週間以内で募った。そして、選ばれたのが『家、ついて行ってイイですか?』の高橋弘樹Pの案だった。

 伊藤Pも、野球を切り口とした番組『野球を観て笑顔になろう!プロ野球!クセ強ベストナイン』(8月16日放送)を企画。野球界を盛り上げていきたいというスポンサーのニーズに応えたもので、さまぁ~ずの三村マサカズ、千鳥の大悟ら出演するベースボールバラエティという新しい切り口だ。

「ポンときてポンと返すスピード感も、これまでテレビ局にはなかったこと。営業は営業、編成は編成、制作は番組作るだけの時代ではもうない。スピード感を出そうと声をかけながら、コロナ禍でもどんどんかたちになっている状況です」

■ライバルはYouTuber? 怒られる覚悟で臨んだ配信企画

「YouTuberとも大いに戦いたい」と、伊藤Pはさらに意気込む。6月末に開催された無観客の有料配信イベント『テレ東無観客フェス2020』の成功が、自信をつけるきっかけにもなったからだ。

 10人のプロデューサーが赤裸々トークを展開するオープニングイベント『テレ東社員だらけのワンコイン裏サロン』から始まり、『生でやりすぎ都市伝説ナイト』や『生勇者ああああ~無観客生配信って聞いたんで面白いけど地上波でボツにしてた企画、ちょっと試してもいいですかライブ~』、『佐久間宣行スペシャル企画「クイズか、宝か!?~見えない企画を試してみる会~」』など、9日間で販売されたチケット数は1万7940枚。十分に収益を生んだ結果となった。

「ほぼ無計画で、準備期間は3週間。もう出せるものを剥がすしかない、怒られる覚悟で臨んだのですが、度胸が据わっているメンバーだからできたことかもしれません。他局と勝負するのではなく、テレビ東京の幅を広げるため。そして表現の場を自分たちで作っていくことをやるのみ。もう勇気だけでやっていますよ(笑)」

 幸先いい新部署の立ち上がりは、まさに機が熟していたからなのか。テレビ局の危機感から生まれたものでもあるが、逆境に強いテレ東の社風が生んだ英断とも言える。

「好きで逆境になっているわけではないんですよ(笑)。半沢直樹さんがおっしゃることが分かり過ぎる。好きなおにぎりの具は何ですか?と言われたら、“逆境”と答えてしまうかも(笑)。今は、業界全体でも視聴率だけの評価で本当にそれでいいのかと、いろいろな悩みを問いかけていくタイミングにあると思っています。失敗も成功もばくばく食っていく。それでも胸を張っていたいですね」

 時代の半歩先を行くテレ東のバラエティ番組スタイルに、今こそ時代が追いついた? そんな風にも思わせるプロデューサー集団の思惑さえ感じられる「伊藤部」。どんな“規格外”を見せてくれるのか、楽しみだ。
(文/長谷川朋子)