社説:日本船重油流出 生態系保全へ支援急げ

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 インド洋の島国モーリシャス沖で日本の貨物船が座礁して1カ月が過ぎた。千トン以上の重油が流出し、サンゴ礁やマングローブ林など貴重な自然環境が汚染された。主要産業である観光への影響が懸念されている。日本は重油除去と生態系保全への支援を急がなくてはならない。

 モーリシャスは人口約130万人。アフリカ南部モザンビークの東約2千キロにある島国だ。海や山など美しい自然が豊富で「インド洋の貴婦人」と称される人気観光地となっている。

 重油はマングローブ林や砂浜にも流れ着いている。地元メディアは浅瀬で死んだ魚やウナギの写真を報じたという。生態系への深刻な被害がうかがえる。

 同国の環境保護団体によると何千人もの住民が除去活動に参加している。特産のサトウキビの葉を束にして重油をかき集めたそうだ。

 1997年にロシアのタンカー「ナホトカ」が島根県沖で沈没し、6千トン超もの重油が日本海に流出した事故が思い出される。沿岸に漂着した重油は数多くのボランティアが手作業でくみ上げて処理した。それだけに日本の貨物船がモーリシャスで引き起こした事故を政府は重く受け止める必要がある。

 モーリシャス政府は多様な野生生物が被害を受け危機的な状況にあるとして「環境緊急事態」を宣言。フランスや国連などが支援を行っている。日本も調査や支援のため、環境省職員や専門家を国際緊急援助隊として現地に派遣した。被害の拡大、深刻化を食い止めるため、継続的な協力が求められる。

 重油流出を引き起こした日本船は商船三井がチャーターした長鋪(ながしき)汽船(岡山県)所有の貨物船。鉄鉱石を積むため中国からシンガポールを経由してブラジルに向かっていた。現地時間の7月25日に座礁し、8月6日に燃料の重油が漏れ出した。

 船は通常の航路を外れ、島に接近したとされる。インド人船長らは島に近づいた理由を「インターネットに接続して故郷の新型コロナウイルスの流行状況を知りたかった」と話しているという。事故の深刻さに比し、あまりにお粗末な理由だ。

 モーリシャス政府は貨物船を保有する長鋪汽船や保険組合に損害賠償を請求する方針。ただ国際条約で金額の上限が定められている。その上限金額で全ての被害を補償するのは困難という見方もある。

 賠償額の不足により、観光を柱とする地元経済や環境被害の回復が遅れるかもしれない。専門家からは企業や団体が基金を積み立てて補償するような制度の構築を求める声もある。検討に値する意見ではないか。

 日本はモーリシャスと同じ島国。政府は今回の被害の回復を海運会社任せ、保険任せであってはならない。「ナホトカ」で得た経験があり、提供できる技術や物資、人材がある。可能な限りの支援をすべきだ。

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