滴:ある夫婦の物語(上) そばにいるのが一番
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その日、施設内のホールでは8月の誕生会を兼ねた歌謡ショーが開かれていた。
タキシードやサテンのドレスに身を包んだボランティアが、朝ドラで話題の古関裕而メロディーを次々と披露する。
「かず、歌っこ聞こえるか?」「この曲、かずも知ってるよなあ?」
ホールに集まった入居者たちの最後列で、一人の男性が傍らの妻に声を掛けていた。妻からの返事はない。
夫は井川義康さん、80歳、元教師。妻のかずさん(仮名)は77歳、元事務職。数年前から秋田市内の同じ介護老人保健施設に入居し、別々の部屋で寝起きしている2人は、20代で結婚し1男1女を育てた。ごく普通の老夫婦だ。
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