乗り鉄日和 かかしはいてもいなくても…沿線全駅に降りてみた 秋の由利鉄編(上)【動画】

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 9月に入ってからしばらく猛暑日が続き、まだ夏は終わらないのかと内心うんざりする日々が続いていたが、最近はすっかり秋らしくなってきた。由利高原鉄道(由利鉄)では、沿線に秋を告げる恒例のイベント「かかし列車」が始まった。

矢島駅ホームに並ぶかかし=9月20日午前7時40分ごろ

 筆者は「乗り鉄日和」の連載を始める際、秋はこの「かかし列車」に合わせて、由利鉄の12駅すべてに降り立とうと考えていた。例年、羽後本荘駅を除く11駅に、地域住民や地元小学生らが制作した50体ほどのかかしが展示され、乗客による人気投票が行われる。数年前に「かかし列車」に乗った際は、車窓からかかしの良し悪しを判断するのにストレスを感じた。だから今年は全てのかかしを間近で見てやろうと狙っていたのだ。

 今年は、新型コロナウイルス感染がまだ収束していないこともあり、制作中に密になることを懸念し、かかし作りを辞退する人もいた。また、由利鉄側も小学校などへは制作を依頼しなかった。そのため、集まったかかしは21体にとどまり、展示場所も矢島駅と前郷駅の2カ所に集約された。肩すかしをくらった気分ではあるが、この状況では仕方あるまい。せっかくの機会なので、全駅乗降は予定通り挑戦することにした。9月20日、由利鉄で乗り降りを繰り返す旅へと出掛けた。

 (取材・鎌田一也)

 由利鉄は全12駅の間を、各駅停車が1日上下14本ずつ走っている。そのため全駅に1日で降り立つことは、他のローカル線に比べれば難しくはない。羽後本荘駅午前6時55分発の下り始発列車(矢島行き)に乗り、1駅ずつ進んでいけば、11本目の列車で、午後7時39分に矢島駅に到着する。そこから日付が変わらないうちに秋田駅まで戻ることも可能だ。ただ、それでは駅での待ち時間が長くなり過ぎるし、何より芸がない。

前郷駅に停車する羽後本荘行きYR-2002と矢島行き「おもちゃ列車」。由利鉄の中で上下線の列車がすれ違うことができるのは前郷駅だけだ=午前11時4分ごろ

 由利鉄は、前郷駅で上下線の列車がすれ違うことが多い(通常ダイヤであれば1日11回)。この特性を生かせば、例えば、下り列車で午後3時3分に曲沢駅に降り立ち、7分後の3時10分に上り列車に乗ることができる。このように、駅での待ち時間を“節約”することも、全駅乗降に挑戦するためには不可欠だ。

 それに、せっかく由利鉄に乗るのだから、やりたいことも多い。今回、筆者が由利鉄の旅で望んだことは以下の通りだ。

・矢島駅の「まつ子の部屋」には絶対に行きたい
・アテンダントが乗務する「まごころ列車」(上りは午前9時40分矢島発、下りは10時43分羽後本荘発)のうちのどちらか1本には、それなりに長い時間乗り続けたい
・西滝沢駅近くの「西滝沢水辺プラザ」で、前回食べ損ねたお昼ご飯を食べたい(食堂の営業は午後2時まで)
・羽後本荘駅近くの飲み屋(ただし、由利鉄の「楽楽遊遊乗車券」で優待サービスを受けられる店に限る)で一杯やってから秋田市に戻りたい。そのためにも、遅くとも午後9時には羽後本荘駅に戻っておきたい(羽後本荘駅発の秋田行き最終列車は午後10時27分)


 この条件を満たすために、時刻表とにらめっこして作り上げた旅程は次の通りだ。

 結果的に、前回の旅と同様、午前4時半過ぎに自宅を出発、徒歩で秋田駅へ向かい、同駅午前5時36分発酒田行き、羽後本荘駅6時55分発矢島行きに乗ることになった。せっかくなので、前回同様、矢島駅前の「多賀部(たかべ)食堂」で朝食を取りたい。お腹をすかせたままで旅を始めた。

橋上駅舎化に向けた工事が進む羽後本荘駅=午前6時半ごろ

 午前6時22分、2カ月半ぶりに羽後本荘駅へ降り立った。前回見掛けた巨大な部材はもう置かれていなかったが、掘り起こされた土が積まれた部分があり、コンクリートが打ち込まれたような部分もあった。また、地面に空いた穴から、のこぎりを引くような音が聞こえてきた。まだ新しい駅舎の姿は見えないが、工事は着実に進んでいるようだ。

 矢島行きの始発に乗車していたのは10人ほど。この日は4連休2日目。地元住民と思われる人もいるが、乗客のほとんどが、いかにも鉄道好きというオーラを身にまとっていた。

「Osaka Naomi」と書かれた黒いマスクを付けているかかし

由利鉄の萱場道夫社長、まつ子さん、志村けんさんがモデルのかかし

 矢島駅ホームに展示されていたかかしは12組。今年はやはり、新型コロナに着想を得たと思われる作品が目立つ。3月に亡くなった志村けんさんや、疫病退散の妖怪「アマビエ」をモデルにしたもののほか、9月の全米オープンテニスを制して話題となった大坂なおみ選手のように、名前が書かれた黒いマスクをしたかかしも(ちなみに、マスクに書かれた名前は「Osaka Naomi」)。

 また、トランプ米大統領が中国と韓国の国旗を手に「みんな仲良くしようぜ」と呼び掛けるシュールな作品もあった。それぞれの人が思いを込めて制作したものなのだろう。ただ、中には制作意図が分かりにくいものもあった。志村さんをモデルにした作品のように、制作者からのメッセージを掲げてもらえれば、もっと楽しめるのになあ、と思った。

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