北斗星(10月9日付)

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 言葉は時代とともに変わる。時事用語は時がたてば忘れ去られてゆく。例えば「書き換え文書」という語がある。今、どれくらいの人がその意味を思い出せるだろうか

▼かつての県庁食糧費問題で使われた言葉だ。各課は当時、職員同士の飲食などに税金を使った事実を隠すため偽公文書を作った。この偽物を県側は「書き換え文書」と呼んだ。こう表現すると、確かにあくどさが弱まる。何とも巧妙な言い換えだった

▼有名なのは戦中の大本営が使った「転進」だ。軍の敗走を「退却」と正直に発表すれば戦意に響く。「転進」なら目的を達成し別方向に進んでいる意味になる。戦況の劣勢を国民に隠すのが狙いだった

▼本来使うべき語を使わず言い換える。その危険性は何か。まず国民に事実が伝わらなくなる。さらに、行政や国の運営に携わる側の判断がゆがめられ、現実を正しく捉えるのが難しくなることだろう。「言葉足らず」にも似た危険性がある

▼日本学術会議を巡る問題で菅義偉首相が学者6人の任命拒否について語った。いわく、安全保障関連法案などへの批判姿勢は「一切関係ない」、「総合的、俯瞰(ふかん)的」な観点から判断した。その真意がすんなり分かる人はどれだけいるのか

▼「関係ない」理由、「俯瞰的」の意味を具体的に説明するのはそれほど難しいことなのだろうか。学術会議の運営に問題があるならそれは何か。言い換えなどせず、意を尽くした分かりやすい言葉が発信されるのを待つ。

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