社説:原発事故高裁判決 生活再建支援、加速せよ

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 東京電力福島第1原発事故を巡る損害賠償請求訴訟で、仙台高裁が国と東電の責任を認める判決を言い渡した。事故を「人災」と指摘した原告の被災者らの主張に沿い、必要な規制措置を取らなかった国の対応を厳しく批判したのが特徴だ。

 原告は福島県や宮城県など4県で被災した約3650人。判決は、うち3550人に計約10億1千万円を賠償するよう国と東電に命じた。一審判決は約2900人への計約5億円の賠償命令にとどまっていた。

 救済範囲を広げたのは東電と同程度の責任が国にあるとの判断からだ。国の責任を「二次的で東電の2分の1」とした一審を見直した意義は大きい。

 国を被告に含む訴訟で一審判決が出たのは13件。うち国の責任を認めたのが7件、否定したのは6件と割れていた。その中で地裁の上位にある高裁が下した初の判決だ。国と東電は重く受け止めなければならない。

 被災者の生活再建支援にも国はこれまで以上に力を注ぐべきだ。事故から9年7カ月が過ぎた今も、以前の平穏な生活をなかなか取り戻せず、放射線への不安などを抱えて暮らしている現実を直視する必要がある。

 判決は国と東電の津波の予見可能性を認定した。まず、政府機関が2002年に公表した地震予測「長期評価」に基づいて試算すれば、海抜10メートルの原発敷地を超える津波の到来を02年末時点で予見できたと指摘。

 だが国と東電は経済的負担を恐れて試算自体を回避。国は東電の不誠実な報告を「唯々諾々」と受け入れ、対策不備に対し規制当局としての役割を果たさなかったとした。国による原発の設置責任も明確に認めた。

 特筆すべきは裁判官が自ら福島に足を運び、原告らの実態を調査していたことだ。放射線量の高い帰還困難区域に防護服を着て入り店舗などを視察。同種の訴訟で高裁裁判官が現地を視察したのは初めてだった。

 被災地の状況を自分の目で確かめ、苦しむ人々の生の声に耳を傾ける。こうした真摯(しんし)な姿勢があったからこそ、画期的判決につながったのではないか。

 同じ事故の刑事事件では昨年9月、東電の元会長ら3人に一審が無罪を言い渡した。長期評価の信頼性を否定、原発停止義務を課すほどの津波の予見可能性はなかったとした。同じ長期評価を「科学的知見」と評価した民事の高裁判決とは正反対の結論だった。今後、刑事事件の控訴審の行方が注目される。

 指摘しなければならないのは、現刑法は個人の処罰を前提としており、企業の重大事故で個人の刑事責任を問う壁は高いということだ。とはいえ、誰一人として罪に問われないのでは市民感覚から程遠い。英国では安全対策を怠った企業の責任を問う制度が誕生している。安全対策を徹底させるためにも、企業に罰金などを科す「組織罰」の導入検討を急ぐべきだ。

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