北斗星(10月22日付)

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 作家の向田邦子さんは子どもの頃、よく夜中に起こされた。茶の間で待っていたのは顔を赤くした父親。宴会の折り詰めを携えて帰り、かまぼこやエビ、きんとんなどを取り分けてくれた

▼そんな思い出を随筆集「父の詫び状」(文春文庫)の中で紹介している。日頃は怒りっぽい父親が優しく世話を焼いてくれるのがうれしかったという。酔って上機嫌な姿が目に浮かぶ

▼街の飲食店は家庭料理とは違う味が魅力。だが新型コロナウイルスの影響を受け、客足が落ち込んでいる。東京では新たなタイプの店も出てきた。「ゴースト・レストラン」。直訳すれば幽霊食堂か。客席を持たず、電話やインターネットで注文を受け、宅配業者に配達してもらう

▼調理場だけで広いスペースは不要。人手も少なくて済むので出店費用が節約できる。そこまでいかないが、県内の飲食店でも「持ち帰りできます」という掲示をよく見掛けるようになった。各店は外食需要の減少を補おうと懸命だ

▼県はプレミアム飲食券、秋田市はクーポンを発行し、飲食業界を支援中だ。同様の国の支援事業も始まった。ゴーストや持ち帰りもやむを得ないかもしれないが、コロナ前のように店内で外食を楽しんでほしいのが飲食店の本音だろう

▼随筆の中で向田さんは、眠い目をこすりつつ食べた料理を「なかなか豪勢なものだった」と語る。食は長く記憶に残り人生を豊かにする。街の味を届けてくれる飲食店に早く元気を取り戻してほしい。

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