社説:海洋放出見送り 処理水処分、検討重ねよ

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 東京電力福島第1原発で汚染水浄化後に残る処理水の処分に関し、政府が海洋放出の月内決定を見送る方針を決めた。海洋放出に対しては、地元や全国漁業協同組合連合会などから根強い反発の声が上がっている。十分な理解を得られないままの見切り発車を避けたことは評価したい。

 原発では溶けた核燃料を冷却する注水などにより、放射性物質を含む汚染水が毎日約180トン発生。これを多核種除去設備(ALPS)で浄化した処理水も増え続け、タンクには約123万トンたまっている。放射性物質のうちトリチウムはALPSで除去できず、処理水に残る。

 東電はタンクが2022年夏に137万トンの容量が満杯となり、敷地内に増設の余地はほぼないとする。海洋放出を行うには設備の工事などで2年程度かかるという。政府がこれ以上の先送りはできないとして処分を急ぐのはこうした事情からだ。

 だが本当に海洋放出に踏み切っていいのか。タンク増設の敷地を確保し、処理水を長期間保管してトリチウムの放射線量を低減させる選択肢はないのか。国内では2年前、トリチウムを含んだ水を分離し除去することに成功した。この技術を実用化する道は探れないか。

 東電は、トリチウム以外の放射性物質はALPSで除去できると説明していた。だが実際は設備トラブルなどのため、トリチウム以外にも基準を超す放射性物質が、処理水の約7割に残留していることが判明した。

 これを受けて東電は処理水を再浄化する試験を先月始め、主要な放射性物質の濃度は基準値を下回ったと発表。来年1月までさらに詳しく調べるとしている。それ以外の放射性物質の濃度は明らかになっておらず、結果を待たずに処分方針を決めることには違和感を覚える。

 海洋放出する際は処理水を再浄化し、さらに薄めてトリチウム濃度を国の基準の40分の1未満にするという。しかし全ての処理水を放出するには20~30年かかる見込み。希釈するとはいえ、環境への影響は小さいと言い切れるのか疑問が残る。

 さらに心配なのは風評被害の拡大だ。福島県沖の漁業は原発事故後、海域や魚種を絞った試験操業を続け、2月に全魚種が出荷可能となったばかり。漁業者は「ようやく福島の魚の安全性が認知されてきたのに処理水を流されては台無し」と話す。

 自治体や関係団体の意見聴取会は7回開かれ、海洋放出反対の声や具体的な風評被害対策の要望が相次いだ。政府と東電はこれらを正面から受け止め、十分に反映させる必要がある。

 来年3月で東日本大震災と原発事故から10年になる。汚染水対策が安全に進められてこその復興だ。政府は慎重な検討を重ね、徹底した風評被害対策を取るとともに、地元だけでなく国際社会にもきちんと説明できる処分方法を示してほしい。

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