社説:菅首相所信表明 「自助」優先でいいのか

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 菅義偉首相が就任後初めての所信表明演説を行った。最も注目すべきは、自らが目指す社会像として「『自助・共助・公助』そして『絆』」をはっきりと掲げたことだ。

 自民党総裁選で打ち出した考え方を、改めて「目指す社会像」に位置付けたことになる。「自分でできることはまず、自分でやってみる。そして家族、地域で互いに助け合う。その上で、政府がセーフティーネットで守る」というのがその意味だ。

 自助を最初に置き、公助を最後にしたのはなぜか。社会における個人の在り方の基本は「まず自分でやってみる」ことだ―というのが菅首相の描く社会像の核心だからではないのか。

 自助・共助・公助は元々、防災関係者が使っていた用語だ。友人や隣人らによる災害時の共助の重要性とともに、公助充実を訴える意味合いがあった。防災行政で自助と共助は、あくまでも公助の不足部分を補うものというのが基本的な考えだ。

 しかし菅首相は、独自に解釈して「自助」を優先しているようにも見える。懸念されるのは「まず自分で」が強調され、自己責任に重きを置く社会になりはしないかということだ。

 新型コロナウイルスの影響で非正規労働者らの解雇や雇い止めに依然として歯止めがかからない。企業の倒産なども相次ぐ。ひとり親やひきこもりなど、複合的な問題を抱えた生活困難層も増えている。

 そうした状況の中で、自助を呼び掛けるのは適切とは言えないのではないか。社会的に立場の弱い人々が声を上げづらくなることがないよう、しっかりと公助の行き届く仕組みづくりを進めなければならない。

 問題はコロナ時代における社会の在り方の根幹に関わる。菅首相にとって初の本格論戦の場となる臨時国会では、目指す社会像について自らの言葉ではっきりと説明する責任がある。

 所信表明ではデジタル庁の新設や不妊治療への保険適用、携帯電話料金引き下げなども改めて提示。観光や農業改革などによって地方への人の流れを創出して地方の所得を増やし、活性化させるとした。個別の政策を羅列した印象は拭えないものの、確実に実現して国民の期待に応えてもらいたい。

 社会の関心が高い日本学術会議の会員候補任命拒否や組織の在り方については、所信表明で触れなかった。この問題では野党が批判姿勢を強めており、臨時国会の焦点となるのは必至だ。菅首相は指摘を堂々と受け止め、任命拒否や行革対象とする理由について分かりやすく、明確に述べる必要がある。

 総裁選で菅首相は、自助・共助・公助の前提として国民の信頼を挙げていた。自らの政策を推し進めるには信頼を得ることが何よりも大切だとの意思表明だろう。臨時国会では言葉を尽くして語り、国民の一層の信頼を得なければならない。

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