北斗星(10月30日付)

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 人間は災厄という不条理をどう乗り越えてゆくのか。それを問い直した小説がフランスのノーベル賞作家、カミュの「ペスト」だ。70年余り前の作品は今も古びない

▼新型コロナウイルスが収束する気配はなく、先行きが見通せないせいだろう。予言めいた内容は現代に通じる。不条理の哲学を打ち立てたカミュの原点ともいえる一作が「異邦人」である

▼冒頭の一文は強烈だ。「きょう、ママンが死んだ」。男は母親の死の翌日に海水浴に出掛け、ついに殺人を犯す。動機は「太陽のせい」。常識で測れない主人公を通して、人間の不条理を追求した

▼先日開かれた全県俳句大会の講演で俳人の長谷川櫂(かい)さんが不条理に言及した。自らの病を機に死を意識し、地獄や極楽が一般に求められる理由を考えて一つの答えを導いた。「現世だけで物事を考えると善悪のつじつまが合わなくなるから」

▼良いことをした人は必ずしも良い目を見ないし、悪いことをしたからといって悪い目に遭うとは限らない。現世は不平等だ。哲学者はこれを「不条理」と呼ぶと長谷川さん。さらに面白いのは大阪弁に例えたこと。いわく「なんでやねん」

▼漫才のボケとツッコミでおなじみの言葉が「不条理」とは考えもしなかった。世の中は「なんでやねん」に満ちているが、諦めてはいけない。カミュは粘り強く不条理に立ち向かうべきだと説く。たとえ結果が敗北だったとしても、そこに幸福を見いだせるという考えに勇気づけられる。

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