社説:鹿角の医師確保策 住民主体の活動が力に

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 鹿角地域の医師不足を解消しようと、2006年に発足した住民団体「鹿角の医療と福祉を考える市民町民の会」(西文雄会長)の活動をまとめた本が刊行された。地道な取り組みで医師確保を実現したほか、医療や福祉を考える中で足元を見詰め直し、地域課題に向き合ってきた点が注目される。医師不足は県内共通の悩みであり、こうした住民主体の活動が各地に広がることを期待したい。

 本は「お医者さんも来たくなる地域(まち)づくり」(鈴木土身=どみ=著、旬報社)。同会は鹿角組合総合病院(現かづの厚生病院)の精神科の常勤医がゼロになったことを受け、鹿角市と小坂町の住民らが設立した。集会を開いて情報を共有しながら、署名を集めて県などに陳情する一方、医師募集のチラシを作って県内外の道の駅に置いてもらうなどの活動を続けてきた。

 10年以上にわたる取り組みが実を結び、18年には北海道の道の駅でチラシを見たという医師ら2人が精神科の常勤医として着任。外来診療が拡充され、新患の受け入れも再開した。

 会の活動の基本になったのが「あえて敵をつくらない運動」だという。誰かに不満をぶつけたくなる中、県や両市町、病院、常勤医の派遣を取りやめた大学とも協力。国の政策が地方の医師不足を招いた最大の要因とし、地域医療の関係者と立場を超えて連携する姿勢が共感を呼んだのは間違いない。

 ネットワークを広げて県内外の医師らから支援を呼び込み、常勤医確保の下地をつくった。両市町も医師不足対策を強化。病院の救急対応の負担軽減などを狙い、住民相談を受け付ける「テレフォン病院24」を17年に開始するなどした。

 常勤医着任は目に見える成果だが、それに伴う活動の広がりに注目したい。医師が進んで来たくなるような地域にする必要があると、自ら調査し地域課題に目を向けた点が評価される。住民の平均寿命や自殺率を踏まえ命を守ることを最大の課題とし、生きる意欲を引き出すために「集まる」「支える」などの項目に沿って対策を提言した。

 鹿角地域では分娩(ぶんべん)取り扱い機能が大館市立総合病院に集約されたため出産ができなくなり、産婦人科医の確保を目指し子育て世代を中心に別の住民団体が発足した。市民町民の会も連携しており、住民主体の流れが引き継がれているのは頼もしい。

 医師の数が限られる上、都市部への偏在もあり、地方の医師確保は一筋縄ではいかない問題だ。まずは医師不足に悩む地域が連携し、政府に対し医師の絶対数を増やすよう声を上げることが重要だ。その上で住民が自らできることを考えたい。

 同会の活動から分かるのは、医師不足を考えることが地域の見直しや住みやすい地域づくりにつながるということだ。こうした住民主体の取り組みがさらに広がってもらいたい。

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