北斗星(11月26日付)

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 麦わら帽子にクリッとした愛らしい目玉。いたずらっぽい笑顔の男の子が釣りざお片手に野山を駆け回る漫画といえば、「釣りキチ三平」だ。原作を読んだことがなくても、キャラクターは県民にとってなじみ深いだろう

▼三平君の生みの親で、横手市増田町出身の漫画家・矢口高雄さんが亡くなった。81歳だった。同市の増田まんが美術館では画業50周年を記念した企画展が開催中。それだけに突然の訃報は残念でならない。驚いた関係者は多かったはずだ

▼同館で矢口さんの原画を見せてもらったことがある。岩の間をごうごうと流れ落ちる滝、釣り上げられ水しぶきを上げるイワナ、紅葉した里の秋。三平君も躍動している。鮮やかな色使い、繊細かつ大胆な描写に思わず引き込まれた

▼矢口さんの古里は山あいの雪深い土地だ。子どもの頃に目にしていた山川の風景が作品の核を成す。ストーリーの面白さはもちろん、矢口さんの作品が多くの人を魅了するのは画力の高さにほかならない

▼漫画そのものが持つ価値を確信していたからだろう。本人が名誉館長を務める増田まんが美術館には自ら生んだ全作品の原画約4万2千点を寄贈した。かつて浮世絵が海外に流出した二の舞いを防ぎたい―。願いは他の漫画家の共感を呼び、現在は40万点以上を収蔵する国内有数の施設にまで成長した

▼漫画は世界に誇る日本文化の一つ。「漫画の神様」手塚治虫さんに憧れた少年は夢を実現し、古里に大きな宝物を残した。

秋田魁新報電子号外

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