社説:移動支援サービス 有効性と課題、見極めを

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 情報技術を活用した新たな交通サービスの仕組みが来年、県内で導入される。観光地の周遊を目的とする期間限定の取り組みだが、この仕組みが本格的に整備されれば、県内公共交通機関の維持に向けた有力な手だてとなる可能性がある。

 新たな仕組みは、情報通信技術(ICT)を活用した移動支援サービス「MaaS(マース)」。移動経路の検索や予約、運賃支払いなどをスマートフォンのアプリを活用して一つのサービスに統合する。鉄道やバスなど複数の交通機関を乗り継ぐ際、目的地までスムーズに移動できるようにするのが狙いだ。

 欧州では取り組みが先行している。フィンランドのヘルシンキでは2016年、さまざまな公共交通機関を一括利用できるアプリの運用がスタート。利用割合が48%から74%へと増加し、その一方で自家用車の利用が40%から20%に減少するなど目に見える効果を生んでいる。

 日本では高齢者の運転免許証返納が問題になっている。日常生活では移動手段の確保が欠かせない。人口減が進む中、公共交通の維持は全国的に重要な課題だ。ヘルシンキの例はマースが一つの解決策になり得ることを示しているのではないか。

 県内ではJR東日本が来年4~9月に実施する大型観光企画「東北デスティネーションキャンペーン」で実施。東北6県8エリアで導入され、県内は「秋田・男鹿」「角館」が対象となる。観光施設や飲食店などの利用も一つのアプリ上で決済などができるようにし、利便性を高め観光地の周遊につなげる。

 ただし気を付けなければならないのは、キャンペーンが人の移動を促すことだ。実施の前提として、徹底した新型コロナウイルス感染対策と万全な医療体制の構築が不可欠であることを忘れてはならない。

 マース普及に向けた取り組みは国を中心に各地で行われている。県内で10月開かれた県主催のセミナーでは、国土交通省の担当者が観光や医療、福祉などのサービスと連携した「日本版マース」構想を紹介した。

 県内への導入は段階的な実証実験とも位置付けられ、大きな可能性を秘めた取り組みと言える。ただし課題もある。列車やバス、タクシーの運行情報を一元的に管理して移動経路の検索や予約に活用し、全体をキャッシュレス決済にする仕組みをまずは整えなければならない。

 仕組みが一定程度出来上がったとしても、車社会に慣れた住民がどれほど利用するかも不透明だ。スマホの使用に不慣れな高齢者にとっては、操作そのものがハードルとなり得ることも懸念される。

 本県の10年後の高齢化率は41%と予測されており、公共交通網の維持・確保は喫緊の課題だ。最新技術の有効性と課題をしっかりと見極めた上で、官民が連携して新たな仕組みの構築を進める必要がある。

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