北斗星(3月3日付)

お気に入りに登録

 東京都文京区と台東区にまたがる谷中、根津、千駄木エリアは古い建造物や街並みが残ることで知られる。通称「谷根千(やねせん)」。そぞろ歩きにはもってこいの場所だ

▼ここに住んだ文豪夏目漱石らの足跡をたどったり、NHK大河ドラマ「青天を衝(つ)け」の主人公渋沢栄一の墓を探したり、古刹(こさつ)を巡ったり。何度訪ねても飽きることがない。古き良き下町風情は「東京の原風景」そのもの。谷根千にそうした雰囲気が残るのは東京大空襲の惨禍を免れたからだ

▼76年前の3月10日、米軍による焼夷(しょうい)弾投下で深川や浅草など下町の多くが火の海となった。2時間半の爆撃で40平方キロが焼失し、約10万人が犠牲になったとされる。幸いにも谷根千は大半が無事だった

▼湯沢市の冨澤愼太郎さん(92)は当時、上野の鉄道学校に在籍していた。学徒動員により浜松町駅と陸軍倉庫を結ぶ引き込み線の敷設工事に従事。空襲時は谷中の下宿先で過ごしていて、奇跡的に難を逃れた

▼しかしその後、黒焦げの遺体を積んだトラックや無数の犠牲者が道路に横たわる光景に上野で遭遇。家族を失った人が泣きながら遺体にすがっていたという。「いたたまれず、逃げるように下宿へ戻り、その夜は一睡もできなかった」

▼先の空襲は史上最悪の無差別攻撃とも言われる。「戦争ほど悲惨で、平和ほど尊いものはない」。冨澤さんの言葉が胸に迫る。8月の原爆の日や終戦の日だけでなく、「3・10」も犠牲者を弔い、恒久平和を誓う日としたい。

秋田の最新ニュース