社説:生活保護訴訟判決 国は真摯に受け止めよ

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 生活保護費の引き下げは憲法に違反するとして受給者らが取り消しを求めた訴訟で、大阪地裁が減額決定を取り消す判決を言い渡した。本県など29都道府県で約900人が同種の訴訟を起こしており、引き下げを違法とする司法判断は初。国は判決を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

 原告は大阪府に住む受給者ら42人。2013~15年の生活保護費引き下げは生存権を侵害し違憲と訴えていた。国はこの3年間で、生活保護費のうち食費などを賄う「生活扶助」を平均6・5%減額していた。

 同種訴訟では名古屋地裁が20年6月に初の判決を出し、引き下げ判断は裁量の範囲内として請求を退けた。これに対し大阪地裁は、国が引き下げの根拠とした物価下落率の算出法に異議を唱え、妥当性を否定。裁量権の逸脱や乱用があったと認定した。慎重さを欠いた国の手法を戒めた判決と言える。

 大阪地裁はまず、物価下落の起点を08年としたことを疑問視した。同年は原油や穀物の価格が高騰した「特異な」年だったため、翌年以降の物価下落率が著しく大きく算出され、合理性を欠くからだ。

 次に、総務省公表の消費者物価指数ではなく、厚生労働省独自の指数を使っていた点も問題視。この指数にはテレビ、パソコンなど生活保護世帯で支出割合が低いものが大きく反映されており、価格下落率を膨らませた。国は、国民の多様な嗜好(しこう)や消費行動に対応する必要があったと主張したが、地裁は不適切とした。国は引き下げの結論ありきで進めたとの指摘もある。

 生活保護は憲法25条が定める「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するため、国の定める「最低生活費」に収入が満たない場合、不足分を支給する制度だ。支給額の改定は客観的な数値を基に厳密に行われなければならない。

 生活保護費の引き下げは安倍前政権が2013年に決めた。消費税増税をにらみ社会保障費の抑制が迫られた時期だった。生活保護に頼らず働く人が不公平感を抱かないためにも、保護水準の適切な見直し自体は必要なことだ。だが裁量の名の下、不適切な物価データに基づく改定で生存権が脅かされることがあってはならない。

 田村憲久厚労相は昨年末の会見で「生活保護を受けることは国民の権利だ。迷わず申請してほしい」と強調した。必要な人に保護が届く制度にするため、利用が憲法に基づく権利であることを国はもっとしっかりと周知すべきだ。

 コロナ禍で困窮しても身内に知られたくないと保護申請をためらうケースが想定される。国は申請時、本人の親族に援助できないか確認する「扶養照会」に関し、弾力的な運用とするよう先月改めた。照会不要とする親族の範囲を広げた内容だ。心理的な障壁を減らすよう、さらなる対策が求められる。

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