社説:大震災10年・防災教育 社会全体で教訓継承を

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 東日本大震災では主に津波が原因で1万5899人が死亡、2500人以上が今も行方不明となっている。戦後の自然災害の中で最大の犠牲者を出した震災の教訓を、節目の年を機にしっかり継承していかなければならない。子どもへの防災教育の充実はもちろん、大人も災害について深い知識を持ち、危険な状況に迅速に対応できるようにしておくことが肝心だ。

 東北の太平洋沿岸部は過去、明治三陸地震(1896年)、昭和三陸地震(1933年)、チリ地震(60年)で甚大な津波被害に遭った。そんな中、「率先して避難者となれ」という防災教育と訓練が東日本大震災で実を結んだのが、岩手県釜石市だ。小中学生のほとんどが速やかに高台に避難し無事だった。

 津波が来たら一目散に逃げる「津波てんでんこ」の教えを根底に置いた教育だった。訓練では教員が津波と同程度の速度で車を運転して生徒を並走させ、津波の速さを実感させていた。

 突然やってくる災害からとっさに自分の命を守るには、普段から防災について考え、備えておくことも欠かせない。子どもに対しては、楽しく学べる防災教育で持続的に関心を持たせることも必要だ。

 本県でも熱心に防災教育に取り組んでいる事例がある。美郷町の六郷小学校だ。下校中に大地震が発生、前方で塀が倒れ、後方では電柱が傾いて電線が垂れ下がった状況を想定。その場合、学校に戻るか、家に向かうか―。迷いやすい状況で判断するトレーニングを積む。判断理由も話し合って検討する。

 具体的な場面をいろいろと設定することで、危険を避けるための感覚が磨かれるだろう。こうした教育方法が広がることを期待したい。震災の教訓は語り継ぐだけでは根付かない。実践的な防災教育に取り組むことが不可欠だ。

 もちろん、大人も先になって防災意識の向上に努めなければならない。市町村のハザードマップや地域防災計画を見て河川氾濫時の浸水の程度、土砂災害の起こりやすい場所、自宅や学校・職場周辺にどのような危険があるのか把握しておく必要がある。これは防災教育で人材を育成する際にも役立つはずだ。

 震災の教訓を将来の世代に継承する上では、被災した学校などの震災遺構が果たす役割も大きい。年月の経過とともに記憶は薄れがちだが、遺構は当時の状況を克明に伝える。震災時に幼かった子どもたちが中高生となり、語り部として遺構を案内しており、防災教育の拠点となっているのは心強い。

 ただ、遺構は修繕費など維持管理コストの問題にも直面している。遺構は将来の災害で犠牲者を減らすために重要な、社会の共有財産だ。長期的に運営できるよう、自治体だけでなく国もしっかり財政支援すべきだ。社会全体で防災教育を支えていかなければならない。

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