北斗星(3月28日付)

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 広辞苑をめくると「実(じつ)」には内容、本当、まごころ、成果といった意味がある。実(み)と読めば果実、汁に入れる具など。「実」の字を含む熟語となると、果実の他にも実感、真実、誠実など日常会話で使う言葉が浮かぶ

▼今年の「歌会始の儀」の題は「実」。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、約2カ月延期され開かれた。秋田市の柴田勇さん(80)の作品が入選10首に選ばれ披露された。「大学の実験室は旧兵舎窓辺に寄りて目盛を読みぬ」という歌だ

▼東京農大1年の時を思い出し、木造の薄暗い一室で実験にいそしむ友人の姿を詠んだ。明るい窓辺でなければ読み取れないのだから、好環境とは言えまい。だから余計に、知を深めようといちずな新入生の姿が想像できる

▼柴田さんの学生時代から約60年、各大学の実験設備は整ったことだろう。一方で今はコロナ禍で授業も平常に戻っておらず、学生たちは感染症のあおりを受けている。東北大(仙台市)は宮城県内の感染者急増を踏まえ、入学式延期を決めた

▼入選作のうちコロナの影響を詠んだのは、郵便局の窓口に勤務する広島県の女性だ。「シールドの向かうの客に釣り渡す架空のやうな現実にゐる」。客との間が遮られた状態で応対する現状に違和感を覚えたという

▼首都圏などに再発令された緊急事態宣言の全面解除後も新規感染者の増加傾向が続く。新年度こそ歯止めをかけたい。コロナを克服した喜びが、来年の歌会始で詠まれることを期待して。

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