北斗星(4月2日付)

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 人の名や言葉を誤って覚えてしまう。イタリアの画家モジリアニはなぜか「モリジアニ」。間違うのが怖くて人前では言わない―。没後40年となる作家の向田邦子さんにそんな話で始まる随筆がある

▼「荒城の月」では「めぐる盃(さかずき)」を「眠る盃」と間違って歌う。保険会社支店長の父が宴会帰りなどに客を家に連れて来る。客が帰り、酔いつぶれた父の膳に酒の残った盃があった。中の酒が「重くけだるく揺れる」。盃が眠っているように見えたらしい

▼「眠る盃」という語に父への思いが見える。向田さんの場合、自称「粗忽(そこつ)者」の心温まる覚え間違いの話だが、国会審議に関わる誤りとなると大ごとになる。相次いで発覚した法案の条文や条約、添付資料などの数々のミスのことだ

▼防衛省関係で「カナダ軍隊」を「英国軍隊」とする重大な誤りがあった。デジタル改革では「地縁」を「地緑」などとしていた。気付きながら1カ月近く政府が国会報告を怠ったものもある。その報告資料にも欠落があったのだから笑えない

▼なぜ、ミスが続くのだろう。過労死ラインを超す長時間労働で官僚が疲れ切っているのか。新型コロナウイルス対策に追われて余裕がないのか。「士気の低下」が背景にあるとみる向きもある

▼官邸主導が行き過ぎて官僚が口をつぐむようになり、やりがいをなくしているのか。もしそうだとしたら、最終的には国民生活にも跳ね返ってくる。「官僚の劣化」と言って済ませられる話ではない。

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