北斗星(4月4日付)

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 目尻が大きく下がった独特の風貌で額にしわを寄せ、唇をとがらせるようにしてとつとつとせりふを発する。一度見ただけで忘れられなくなる俳優だった。数々の映画やテレビドラマに出演、個性的な演技で親しまれた田中邦衛さんが亡くなった。88歳だった

▼代表作は何と言っても1981年から約20年間続いたドラマ「北の国から」だろう。北海道・富良野の大自然の中で子どもたちに深い愛情を注ぐ不器用な父親・黒板五郎の人間像は多くの共感を呼んだ

▼田中さん自身もこのドラマが転機になったと振り返っていた。最初の収録のため1年半も現地で過ごして役に打ち込み、他の仕事はセーブした。富良野の人たちは「五郎さん」と役名で呼び、通り掛かった家の人が「お茶飲んでってくれ」と声を掛けた

▼山田洋次監督の映画にも何本か出演している。「男はつらいよ」シリーズ第7作(71年)では、青森県の教師を演じた。榊原るみさん演じるマドンナ花子を小学校時代から指導しているという設定。東京で「とらや」の一家に身を寄せている花子を故郷へ連れて帰る

▼武骨で優しく、愛情あふれる教師の姿は後の五郎役にも通じるものがある。教師は五能線沿線の小学校に勤務している。隣県の住民としては日本海の風景などが懐かしく、教師や花子への親しみがぐっと増す

▼映画、テレビで活躍した名優がまた一人逝ったのは寂しい。だがその映像は残る。田中さんはこれからも長く愛されることだろう。

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