社説:デジタル庁発足へ 市民監視の懸念拭えず

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 菅義偉首相の看板政策であるデジタル庁が9月に発足することになった。昨秋の自民党総裁選で創設を打ち出してから8カ月余でデジタル改革関連法の成立にこぎ着けたことになる。

 オンライン化による行政手続きの効率化を一気に推し進めて利便性を向上させ、豊かさが実感できる国民生活を実現する。それが菅政権の狙いだ。新型コロナウイルス対策の給付金支給遅れなどがきっかけとなった。

 大きな柱となるのがマイナンバーカードの利用拡大だ。複数口座をマイナンバーでひも付ける仕組みをつくるほか、給付金の受取口座をマイナンバーと一緒に登録できるようにする。いずれも本人の意思に基づく。スマートフォン活用による行政サービスも想定されている。

 だが利便性重視のあまり、肝心の個人情報保護が手薄になってはいないか。国と自治体の情報システムは今後、共同化され、国民の膨大な個人情報を国が集中管理する可能性がある。それだけに情報漏えいや目的外利用が発生すれば、被害は甚大なものとなりかねない。

 そうした事態を防ぐのが政府の個人情報保護委員会の役割だ。主に民間事業者を監督するなどしてきたが、国の行政機関や自治体、都道府県警察などを含めて対象を拡大する。

 事務局職員は約140人。LINE(ライン)の利用者情報が中国から閲覧できた問題なども発生、「民間対応だけで手いっぱい」との声が上がる。

 体制強化のために各省庁からの出向者を増やすとしても、出向元の官庁を出身官僚が監督するような事態は避けねばならない。身内への甘さが生じて適切に対処できない恐れがある。

 個人情報を確実に保護するためには職員を増やすと同時に、独立性を保障された専門職員による監視体制へと刷新するべきなのではないか。現体制では脆弱(ぜいじゃく)だと言わざるを得ない。

 司令塔となるデジタル庁の体制についても不安が残る。職員約500人のうち、約4分の1に当たる120人程度を民間から起用、大手IT企業との兼業も認める。

 有能な人材を得るためとはいえ、個人情報の漏えいや自社に有利な政策誘導などが起こることも懸念される。兼業は認めず、正職員として身分を保障するべきだろう。

 国が個人情報を集中管理することで市民への監視が強まる可能性も排除し切れない。弁護士ら法律家有志は「デジタル庁が集約した情報は官邸を介して警察庁・各都道府県警察と共有されることが強く疑われる」と指摘。監視を禁止、規制する立法措置が不可欠だと強く訴える。

 関連法成立について、菅首相は「わが国のデジタル化にとって大きな歩みになる」と意義を強調した。だがデジタル化を進めるのであれば、個人情報の保護を万全にする体制の整備を並行して早急に進めるべきだ。

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