社説:建設石綿訴訟判決 被害者全ての救済急げ

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 建設アスベスト(石綿)被害を巡る4件の集団訴訟で、最高裁が国の賠償責任を認めた。元労働者と遺族らが訴訟を起こしてから約13年、国は救済に向けてやっと重い腰を上げた。

 建設石綿被害訴訟は2008年以降、各地で起こされ、原告は全国で計約1200人。このうち今回の4件(東京、横浜、京都、大阪)、原告数計約500人について最高裁が初の統一判断を示したことになる。

 一連の訴訟では原告の多くが既に死去。高齢化も進んでおり、残された時間は少ない。敗訴を重ねても最高裁まで争い、被害者の救済を遅らせた国の責任は極めて重い。

 石綿は安価で耐火性などに優れ広く建材に使われてきた。粉じんを吸うと肺を覆う胸膜などに腫瘍ができる中皮腫や肺がんの原因となる。潜伏期間が数十年に及ぶこともあり、発症後は数年で死亡することが多く「静かな時限爆弾」とも呼ばれる。

 最高裁は、国が1975年には危険性を理解していたにもかかわらず、マスク着用などの義務付けを怠ったことを「著しく合理性を欠く」と厳しく批判。2004年の政令改正を機に石綿を含む建材がほぼ流通しなくなるまでの29年間、必要な対策を放置していたと断罪した。

 原告の一人が大仙市出身で埼玉県在住の大坂春子さんだ。ともに大工だった夫(美郷町出身)と長男を中皮腫により相次いで失った。大切な2人を奪われた苦しみはいかほどだろう。原告代表として菅義偉首相と面会した際、大坂さんは「裁判をせずに、全ての被害者が救済される制度をつくってほしい」と声を震わせながら訴えた。

 判決を受け、政府と原告団は1人当たり最大1300万円の和解金を国が支払うことで合意。未提訴の被害者には議員立法により給付金を払うとした。

 石綿被害に苦しんでいる人は原告以外にも全国に大勢いる。一日も早く法律を成立させ、救済しなければならない。

 判決は建材メーカーの責任を一部認めた。だが企業側に救済に向けた動きは見えない。国とメーカーによる補償基金の創設を弁護団は与党に提案していたが、実現に至らなかった。

 複数の現場で作業した被害者が、どのメーカーの建材で病気になったかを立証するのは困難なことなどが背景にある。とはいえ、企業側には有害な建材を供給した責任がある。企業の社会的責任を果たすという意味でも市場占有率などに応じた基金拠出を考えるべきだ。

 全国では毎年、中皮腫により千人以上が死亡。石綿を使用した可能性のある建物の解体は28年ごろピークを迎え、約10万棟に上るとの国の推計もある。

 石綿被害は今後も拡大する恐れが拭えない。解体の作業手順など安全対策や健康診断を徹底するとともに、国と企業が協力して被害者を広く救済する仕組みをつくる必要がある。