ローカルメディア列島リレー (21)中山よしこ
全国のローカルメディアの作り手が、ローカルならではのメディアの形や取り組みについて綴るリレーエッセイです。紙もウェブも、看板やアートプロジェクトだって「ローカルメディア」に?! 特色あるローカルメディアの担い手たちのアイデアと奮闘の記録です。
さいはての日常を伝える
「シリエトク」は知床の語源のアイヌ語で「大地の突端」を意味する。大自然や、ヒグマやエゾシカなど野生動物をイメージする人が大半だろう。
ここで生まれ育った私は、田舎ならではの狭さから逃れるように都市へ移り、やがて疲れてUターン。転機となったのは地元唯一の新聞社への就職。自然保護に奔走する動植物研究のプロたち、知床開拓の歴史、ご近所さんの意外な趣味まで、宝探しのごとき取材に自分でも驚くほどのめり込んだ。そして、大自然と二人三脚で暮らす「人」にスポットを当てたいと、仲間とともに2011年に小冊子「シリエトクノート」を創刊した。
「日常の延長線上の知床」を念頭に置きつつ、自分たちの「面白い! 知らなかった!」という感覚に従って誌面をつくった。例えば、流氷。知床の冬の風物詩だが、近年は地球温暖化の影響もあり減少している。昔を知る人に聞くと「戦車のような巨大な氷がゴロゴロ」「沖で流氷に阻まれ、船を捨てて海上を歩いて陸に戻った」など想像を上回るエピソードばかりで、自然の驚異とともに地元民のたくましさに感嘆した。同様に「地域の日常に溶け込んだ非日常」は、どんな地域にもひとつはあると思う。
活動開始から10年目。冊子制作は休止中だが、文化の地産地消を目指し、知床がテーマのアート企画や、古本市開催など節操なく動く日々だ。近年は若い移住者が増え、独自のやり方で知床を発信している。ゴミ拾いプロジェクトを立ち上げた団体、ゲストハウスづくりに励む女性、新しい紙媒体を作ろうと試みるかつての読者……。もう自分たちだけではない。それがうれしい。
中山よしこ|シリエトクノート
北海道・斜里町在住。札幌市からUターン後、2011年に斜里町内の仲間と「シリエトクノート」を創刊(現在品切)。以後、知床に来訪するアーティストとの共同プロジェクトや、移動古書店「流氷文庫」等で活動中。