北斗星(6月1日付)

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 歌人俵万智さんの第1歌集「サラダ記念日」は歌壇に衝撃を与え社会現象を巻き起こした。初版はバブル景気に浮かれた昭和も末の1987年5月。ミリオンセラーを記録した

▼時代を切り取る言葉のセンスが巧みだ。からっとした恋愛の歌は今なおみずみずしい。〈「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの〉。師と仰ぐ佐佐木幸綱さんは後書きで「口語定型の文体の新しさ」を評価した

▼石川啄木や寺山修司ら先人が挑んだように、口語短歌そのものは新しいものではない。俵さんの歌は口語でありながら、五七五七七の定型リズムに乗っている。古語と現代の日常語を自在に使いこなす技法が光る

▼先日秋田市で開かれた全県短歌大会で、歌人東(ひがし)直子さんが現代短歌について講演した。俵さんの登場によって短歌に親しむ層が広がり、2000年代にはインターネットや会員制交流サイト(SNS)などを通じて、若者の作歌が盛んになったという

▼会場からは散文や詩に近い短歌への疑問がぶつけられた。東さんは「あふれ出る気持ちを重視すると破調の歌が増える」と答えた。やりとりを聞き、伝統と革新を繰り返す中で、時代に呼応した新たな表現方法を獲得してきた短歌の奥深さと可能性を感じた

▼俵さんの最新歌集「未来のサイズ」が今年の迢空賞に選ばれた。そのうちの一首〈手洗いを丁寧にする歌多し泡いっぱいの新聞歌壇〉。やはり時代をすくい取るのがうまいなあ。

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