社説:ネット上の中傷 一層の対策強化が必要

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 インターネット上で誹謗(ひぼう)中傷する匿名の発信者を特定しやすくする改正プロバイダー責任制限法が4月に成立した。来年秋ごろをめどに施行される。被害者を迅速に救済するという点では前進だが、これだけではネット上に広がる言葉の暴力はなくせない。さらなる対策を検討する必要がある。

 現行では発信者の特定に、投稿先の会員制交流サイト(SNS)事業者や、プロバイダーと呼ばれる接続事業者を相手にそれぞれ訴訟を起こすなど2回の手続きが必要。法改正に伴う新たな裁判手続きにより1回で済む。

 これまでは特定するまでに時間や費用がかかり、その間にも中傷が拡散したり発信者を特定できる情報が削除されたりする恐れがあった。被害者が発信者を特定しやすくなることで中傷の抑止につながることも期待される。

 改正のきっかけは、昨年5月にプロレスラーの木村花さん=当時(22)=がSNSで中傷を受けて自殺したことだった。対策の強化を求める声が強まり、1年足らずで法制化にこぎ着けたのは評価したい。

 ただ、運用に当たっては、根拠のない悪口で他人を傷つける中傷と、社会に向けた健全な批判をしっかり区別しなければならない。言論の自由を妨げないよう慎重な運用を求めたい。

 木村さん事件の中傷投稿で警察が確認したのは約300件に上る。発信者は多数いたとみられるが、立件されたのは2人だけ。侮辱罪の公訴時効1年が壁となり、書き込みの大半が不問のまま終わった。侮辱罪は発信者の特定に時間がかかるネット上の中傷を想定しておらず、時効の見直しが必要だ。

 立件された2人は侮辱罪で略式起訴され、いずれも科料9千円が命じられた。侮辱罪の法定刑は「拘留または科料」。拘留は30日未満、科料は1万円未満だ。自殺の引き金になりかねない点を考えれば軽くないかとの声が上がるのは当然だろう。上限の妥当性も検討すべきだ。

 法務省の人権擁護機関が昨年、ネット上の人権侵犯事件として対応したのは1917件で、過去2番目に多かった。このうち直接プロバイダーなどに削除を要請したのは578件で過去最多だった。被害者が泣き寝入りする場合も多いとされ、統計の数字は「氷山の一角」とみるべきだろう。

 SNS事業者の中には、中傷につながる言葉が含まれる書き込みを非表示とする機能などを設けている。相談窓口を開設した事業者団体もある。民間事業者による自主的な対策も積極的に進めてほしい。

 法律で全ての問題を解決するのは難しい。ネットを適切に使いこなす「ネットリテラシー」向上のための教育も大切だ。誰でも自由に発信できるネットの利点を生かせるよう官民で知恵を絞りたい。

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