社説:「黒い雨」高裁判決 上告せずに救済を急げ

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 広島への原爆投下直後に降った放射性物質やすすなどを含む「黒い雨」を巡る集団訴訟で、広島高裁が住民ら原告勝訴の判決を言い渡した。被告の広島県と広島市、訴訟に参加する国は上告せず判決を受け入れ、黒い雨を浴びた原告全員を被爆者と認めて直ちに救済すべきだ。

 一審の広島地裁判決は昨年7月、全員を被爆者と認定した。しかし「最新の科学的知見や過去の類似裁判の確定判決に反する」などとして県と市、国が控訴していた。

 原告は全員で84人。年齢は70~90代で2015年の提訴以降、14人が亡くなっている。

 上告して最高裁の判断が出るまでさらに時間がかかれば、救われるべき命が失われかねない。原告の年齢を考えれば、訴訟をこれ以上長引かせることは到底許されない。

 被爆者援護法に基づく現行制度では、原爆投下時に特定の区域にいた人を対象に被爆者健康手帳を交付するなどして救済。医療費を原則無料にするといった措置を講じている。

 区域には爆心地周辺の「援護区域」と、その北西側の黒い雨が強く降ったとみられる「特例区域」がある。原告は黒い雨を浴びたものの、特例区域のさらに外側にいた。このため救済措置が受けられないのは違法として訴えていた。

 高裁判決で注目されるのは、救済が国家の責任であると明言したことだ。原爆による健康被害を援護法に基づいて「他の戦争被害と異なる特殊なもの」と位置付け、「戦争遂行主体の国が自らの責任で救済を図る」という国家補償的配慮が制度の根底にあると言い切った。

 判決はさらに、黒い雨の範囲は特例区域よりも広いと推測されると指摘。黒い雨により健康被害を受けた可能性があれば、被爆者に当たると判断した。

 この判断に立てば、黒い雨を浴びて健康不安などを抱える原告以外の人々にも救いの手を差し伸べることができる。より幅広い救済を可能とする制度の在り方を示した点で、まさに画期的な判決だ。

 健康手帳を持つ全国の被爆者は昨年度末で12万7千人余り、平均年齢は約84歳。判決の考えに従えば、被爆者が高齢化する中、さらに多くの人々を救うことができるはずだ。国にはまさしく、「戦争遂行主体」として制度を拡充する責務がある。

 国が特例区域を指定したのは1976年のことだ。その後間もなく、市民による黒い雨区域拡大運動が始まり、既に約40年が経過した。訴訟は長崎でも起こされており、最高裁での敗訴確定後、原告の一部が再提訴して闘っている。

 戦争の犠牲者でありながら、広島、長崎とも市民が裁判に訴えなければ救済されないというのは、あまりにも理不尽と言うほかない。黒い雨を浴びた全ての人々を救うため、国は一日も早く決着を図るべきだ。

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