北斗星(8月11日付)

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 小説「檸檬(れもん)」で知られる梶井基次郎に「闇の絵巻」という短編がある。胸膜炎の悪化で転地療養のため伊豆の湯ケ島に滞在するのだが、そこで過ごした1年半に及ぶ療養生活での体験が描かれている

▼暗い夜道を歩きながら次々と思い浮かぶ心象風景がつづられる。そこでは闇が単なる暗がりではなく、深い豊かさをたたえている。療養を終えて大都会に戻った梶井は「電灯の光の流れている夜を薄っ汚なく思わないではいられない」と振り返る

▼闇の豊かさがあって光の美しさが際立つ。鳥海山などで真夜中に星空を眺めたことがあるが、漆黒の闇の支配する山中で見る星のきらめきは恐怖を覚えるほどだ

▼北秋田市の市民有志が組織した協議会「やってみよう!北秋田」は山で見上げる星空に着目し「星空案内人」の養成に取り組んでいる。森吉山周辺から眺める星空を貴重な観光資源として捉え、地域の新たな魅力を発信する試みという

▼秋田内陸縦貫鉄道と協力して「星空列車」を運行するなど、さまざまな角度から星空を楽しむ仕掛けにも取り組んでいる。都市部の住民には新鮮な驚きで受け止めてもらえるのではないか

▼東京五輪の閉会式で宮沢賢治が作詞作曲した「星めぐりの歌」が歌われた。東日本大震災からの復興の願いを星空に託したという。歌を聴きながら、最近は夜空を見上げて闇と対話することがめっきりなくなったと気付いた。周囲に深く豊かな闇が広がっているのにもったいないことだ。

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