北斗星(8月30日付)

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 坂道を上ると大きなクロマツが左に見えてくる。車で信号待ちの間、樹齢約200年という老いた木を眺める。それが通勤時の日課だった。場所は秋田市八橋、「油田(あぶらでん)の一本松」と呼ばれていた

▼それが先日伐採された。数年前から衰えが目立ち、所有する市が土壌改良などを施してきた。だが昨夏、完全に枯れてしまった。その変わりように驚いたのは今春だった。葉のない太い枝を1本だけ空に突き出したような姿が痛々しかった

▼高さ約9メートル、根元付近の幹回りは約3メートルあった。残された切り株にはびっしりと目の詰まった年輪がある。鼻を近づけると松独特の爽やかな香りがした。やにがにじみ出ている所もある

▼江戸後期の街道沿いの風景を描いた「秋田街道絵巻」には、道沿いに幼い木が見える。かごを担ぐ人の背丈よりも低い。暑さや強風から旅人を守るために植えられた並木らしい。その1本が生き残り、一本松になったと考えられている。あるいは後に植え直した1本だったのかもしれない

▼この松は台風や大雪に耐えて力強く根を張り、人の寿命をはるかにしのぐ歳月を生きてきた。子供の頃に木登りした人、自宅への道案内の目印にした人、声を掛けながら通り過ぎた人…。それぞれに思い出があるに違いない

▼多くの車が行き交う所にあるため排ガスの影響を受けた、周辺で開発行為が繰り返されて弱った―。枯れた背景にはそんな可能性も拭えない。今はただ、大きな切り株だけが残っている。

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