社説:菅首相、退陣意向 地方創生策は道半ばだ

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 菅義偉首相が退陣の意向を表明した。自民党総裁選へは出馬しない。総裁選の先には次期衆院選が迫る。国民の間に渦巻いている菅政権の新型コロナウイルス対策が不十分という強い批判に抗し切れなかったと見るのが自然だろう。

 菅首相は官邸で「新型コロナ対策と総裁選の選挙活動には莫大(ばくだい)なエネルギーが必要であり、両立できない。コロナ感染防止に専念したい」と不出馬の理由を述べた。これは残る任期を万全なコロナ対策で臨む決意の表れと受け止めたい。

 菅首相は1年前、体調を理由に安倍晋三前首相が辞任表明した後、自民党総裁選で勝利して首相に就任。安倍政権の経済、外交政策を継承し、新型コロナ対策を最優先としつつ「国民のために働く内閣」を掲げた。

 ただこの1年は新型コロナ感染が拡大するたびに緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を発令。「後手後手」と厳しい批判も浴びた。次々と現れる変異株への対応でも難しいかじ取りを迫られ続けた。

 頼みの綱としたワクチンは、確保の段階で諸外国に後れを取った。それでも接種が本格化した4月以降は菅首相が自らスピードアップに乗り出した。高齢者接種の完了目標を7月末としたのを皮切りに自衛隊による大規模接種会場開設などを打ち出し、ここでは突破力を示した。

 賛否があった東京五輪・パラリンピックは無観客で開催を決定。開催期間中に感染力の強いデルタ株による第5波が拡大、首都圏を中心に医療逼迫(ひっぱく)を招いたのは痛恨の極みだろう。ここまでの状況悪化を何とか防ぐ手だてがなかったものか。

 秋田の農家出身で「たたき上げの苦労人」をアピールした菅首相には就任時、多くの支持が集まった。ところが先月にはその支持率が危険水域といわれるまで低下。さらに自身の選挙区のある横浜市長選で応援していた盟友の候補者が野党推薦候補に敗北した。党内の求心力が急激に衰えたのは当然だ。

 看板政策の一つデジタル庁は今月1日に発足。孤独・孤立対策、不妊治療や子育て支援の拡大など、国民の困難に寄り添う政策も推進した。地方創生を目指す「テレワーク推進による人や企業の地方移転」などは道半ば。引き継がれるべき政策だ。

 菅首相の不出馬で自民党総裁選の構図は大きく変わる。いずれにせよ候補者にはコロナ対応が第一に問われる。菅首相が言う「国民の命と暮らしを守る」ことは大切だが、「命」こそ最優先すべきなのは間違いない。感染防止対策に甘さがあったのではないか。候補者には他山の石としてほしい。

 コロナ禍では政治家の言葉の重さが改めて見直された。危機に際して国民に分かりやすく十分な説明が行われるかどうか。たとえ能弁ではなくとも、真摯(しんし)に訴え続ける姿勢を持つ人物の登場こそが待たれる。

秋田魁新報電子号外

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