北斗星(9月14日付)

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 横手市平鹿町の吉田城跡は戦国期の土豪の居館跡である。往時をしのばせる土塁の一角に「秋田の自由民権発祥の地」と刻まれた石碑が立つ。明治期に当地で起きた「秋田事件」から100年を迎えた1981年に建立された。民衆史研究で知られる歴史家の色川大吉さんが揮毫(きごう)した

▼秋田事件では旧平鹿町、旧大雄村で強盗殺人と集団強盗が発生。平鹿町の柴田浅五郎を会長とする自由民権団体・秋田立志会による国家転覆計画の一環とされ、柴田ら多数の会員が逮捕された

▼碑が建てられた81年には全国で「自由民権百年」の集会が開かれ、歴史の見直しが進んだ。平鹿町でも集会が開かれ、色川さんが講演。残された警察や裁判所の記録を丹念に読み解き、事件が自由民権運動に対する全国初の大掛かりな弾圧だったことを明らかにした

▼これが呼び水となり事件を巡る研究は深化。現在では事件は時の政府が仕組んだ謀略であり、柴田らは冤罪(えんざい)だったという説が広く支持されている

▼1世紀を経て関係者の名誉は回復された。色川さんの指摘がなければ真相解明はさらに遅れたことだろう。本県の歴史研究にも重要な足跡を残した色川さんが亡くなった。96歳だった

▼講演の記録によると、色川さんが聴衆の中にいた立志会員の子孫らを気遣ったことが分かる。会員は政府による弾圧の被害者。そう語って親族が長い間耐え忍んだ労苦をいたわった。歴史の荒波に翻弄(ほんろう)される民衆に寄せた温かいまなざしを感じる。

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