ローカルメディア列島リレー(25)土屋誠
全国のローカルメディアの作り手が、ローカルならではのメディアの形や取り組みについて綴るリレーエッセイです。紙もウェブも、看板やアートプロジェクトだって「ローカルメディア」に?! 特色あるローカルメディアの担い手たちのアイデアと奮闘の記録です。
ローカルメディアは生きものだ。
「山梨って温泉とかワインが有名なんでしょ?」東京時代に地元山梨のことを尋ねるとこの二つのキーワードがよく出てきた。というか、この二つのキーワードくらいしか出てこない。さらには、温泉もワインもどこの宿がよくてこのワイナリーのワイン最高だよね、という具体的な名前も出てこない。いわゆる、大枠の山梨のイメージしか伝わっていなかった。かくいうぼくも、何を知っているかと問われると、知らない。「山梨には何もない」なんて知りもしないくせにそう言って東京に出てきたのだった。
2013年に約10年ぶりに地元に戻ろうと決意し、戻ってすぐに山梨の人や暮らしを伝えるBEEKというフリーマガジンを一人で立ち上げた。毎号「しごと」「本」「WEEKEND」「発酵」などテーマを決め、テーマにあう人を探して会いに行って話を聞いた。ぼくは高校生くらいから雑誌がずっと好きで、「いつか自分でも雑誌を作りたい」と思い続けていた。Uターンのタイミングと、冒頭の言葉を聞いたときからずっとあったモヤモヤや悔しさや自分の無知を解消したいという目的を得て、長年の夢が具現化した。山梨を知るための壮大なフィールドワークにもなり、ふだんのぼくの生業でもあるデザインや編集の仕事もBEEKで出会った人の縁で広がった。
現在までにBEEKはフリーマガジンから派生して、ウェブメディアやウェブラジオ、街でのイベントなどに広がっている。ローカルメディアは生きものなんだなと、いつかまだ大勢人が集まっていた街の中でそう思った。どういう形でも続けていくことも大事なんだ。
土屋 誠|アートディレクター
1979年山梨県笛吹市生まれ。東京で約10年デザイン& 編集に携わり、2013年地元山梨にUターンし、山梨の人や暮らしを伝えるフリーマガジンBEEKを創刊。やまなしのアートディレクターとして、日々伝える仕事をしている。