北斗星(9月23日付)

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 「手続き用紙をもらえないか」「オンラインのみです」「パソコンが使えない場合は」「窓口に電話してください」「電話番号は」「サイトにあります」。こんなかみ合わない会話が続けば、頭がどうにかなってしまいそうだ

▼英国映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」の一シーンだ。主人公は実直な中年男性で、大工としての腕は確かでもパソコンは大の苦手。心臓の病気で休職し、国の支援手当を受給していた。ところが説明もなしに給付を止められ、役所で複雑な手続きを強いられる。そして冒頭のシーンに至る

▼映画は世界に拡大する格差や貧困問題がテーマ。緊縮財政の英国で助け合いながら懸命に生きる人々を温かく描く。2016年カンヌ映画祭で最高賞に輝いた。パソコンの操作ができないデジタル弱者が立ち往生する姿も印象的に描写される

▼今月発足のデジタル庁は昨年、新型コロナウイルス対策の10万円支給が遅れ、改善が叫ばれたのがきっかけ。行政や企業などのデジタル化を推進する。ワクチン接種予約で電話やネットが不通となったような混乱の解消に寄与できるだろうか

▼子育てや介護など暮らしに関わる多くの手続きもオンライン化する。利便性が向上する陰で、デジタル弱者がないがしろにされることがないか懸念される

▼映画では主人公の「フゥー」という嘆息が繰り返される。「役所はどこもデジタル派。俺は鉛筆派だ」。そんな悲痛な声は映画の中だけのことであってほしい。

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