ローカルメディア列島リレー(26)黒川真也
全国のローカルメディアの作り手が、ローカルならではのメディアの形や取り組みについて綴るリレーエッセイです。紙もウェブも、看板やアートプロジェクトだって「ローカルメディア」に?! 特色あるローカルメディアの担い手たちのアイデアと奮闘の記録です。
道草、寄り道、脱線、余談。
アイデアにんべんと名付けた事務所名は漢字に由来している。漢字は、偏と旁(つくり)が合わさって一つの意味を成すことが多いし、ぼくらの仕事は、漢字のようなものだと思っているからだ。依頼主のおもいをカタチにするのが仕事である。しかし、依頼主のおもいだけが先走ってもいけないし、ぼくらのおもいだけでも良いものには仕上がらないと考えている。
だが、依頼主のなかには、広告や発信するためのツール(チラシやパッケージなど)を作ったことがない人も多く、そんな人からは、たまに「すべておまかせします」という言葉が出てくる。これを言葉通りに受け取ってはいけないと思っている。
人は、自分がよくわかっていないことに関しては、言葉を持っていないことが多い。何をどのようにお願いしていいのか。要望を、具体的な言葉として言えないだけなのだ。だから早い段階で、依頼主の「実はこんなことを考えている」を引き出すことが大事だと思っている。
人によって、本音がポロっと出てきやすいタイミングはさまざまだけど、話が脱線したときや、打ち合わせ後の余談の時間に多いような気がする。だから、一回目の打ち合わせは、長めになりがち。初っ端(ぱな)から一緒にごはんを食べるだけってこともある。余談に花が咲いてしまい「で、今日はなんで来たんだっけ?」ってことも。仕事がきっかけで友だちになった人もいる。ごくたまに、仕事と遊びの線引きが、わからなくなることもあるけど……。こんな自営業者になって15年。遠回りな仕事のスタイルに、理解と興味をもってくれる人が増えてきた。これはきっと良い社会だ。
黒川真也|デザイナー
アイデアにんべん(企画と言葉とデザインと)沖縄本島の真ん中あたり、焼きもので有名な読谷村を拠点に活動。沖縄県内の「伝えたい」ことがある、小商い、海人、畑人、伝統工芸の工房、福祉法人、学校、行政などの発信ツールをつくるお手伝いを夫婦でしています。