ローカルメディア列島リレー(27)福永あずさ
全国のローカルメディアの作り手が、ローカルならではのメディアの形や取り組みについて綴るリレーエッセイです。紙もウェブも、看板やアートプロジェクトだって「ローカルメディア」に?! 特色あるローカルメディアの担い手たちのアイデアと奮闘の記録です。
味噌(みそ)の神様。
昨年9月に仕事仲間と企画・運営をした「味噌天ZINE」は、熊本初のZINEのイベントだった。会場は、大きなクスノキが美しい通りに面した書店のギャラリー。コンセプトは“30組30冊のZINE”だ。熊本には「味噌天神」という地名があり、このまちには味噌の神様を祀(まつ)った神社がある。最初の打ち合わせでカメラマンが言った。「みそてん“じん” しかなかど? (イベント名は味噌天ZINEしかないよね)」。おそれおおくも、神様の名前をお借りすることにした。各家庭で味噌汁の味が違うように、自家製発酵させた味ですよ、といっちょまえの理由をフライヤーに書いて。あっぱれな後付けだ。
紙だからできること、紙にしかできないことを発表しないかと、熊本にゆかりのある30人に声をかけた。画家、花屋、農家、イベンター……。それぞれの視点で熊本を見つめ、営みを続ける作家が手がけたZINEは、1冊1冊が本当に絶品だった。5日間で約1900冊が売れた。個人的な話をすると、キャリアのスタートとなったタウン誌が同じ年の春に休刊。「紙はやっぱ売れん」。これからもこのまちで、どうしようもない紙離れを嘆き、悲しみながら、編集者人生を歩むのだと思っていた。
あの日、まちの本屋の小さなギャラリーで、紙の本が次々と飛びたっていくのを見た。イラストで、絵で、写真で、ありったけの方法で。それぞれの「味」を表現した作品を、両手いっぱいに抱えたお客さんを見たとき。そこには、確かに手ざわりのようなものがあった。期間中何度も、味噌の神様に感謝したことは言うまでもない。
福永あずさ|編集者・コピーライター
1984年生まれ、熊本在住のフリーエディター・コピーライター。紙・ウェブ問わず、多様なジャンルの企画・編集・執筆・ストーリーテリングに関わる。酒場の呑み歩き、ひとり旅、猫、BTSを偏愛。