北斗星(11月26日付)

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 首都圏を巡っていると、高層ビルの窓や地上の開けた場所から富士山を望める日がある。その姿に江戸後期の浮世絵師、葛飾北斎の錦絵「富嶽(ふがく)三十六景」を思い起こす

▼富士山のある風景を描いた北斎の代表作で全46図から成る。眼前にそびえる山容をダイナミックに描写するだけではない。人々の生活の背景に富士がひっそりと姿を見せる構図もある。絵に占める山の割合はわずかでも存在の大きさを感じさせる。卓越した表現力と言うほかない

▼広く知られた三十六景は70歳を過ぎてからの作品。後の作品集の後書きには「70歳より前に描いたものは取るに足らないものだった」などと記し、百数十歳になれば一筆一筆が生きているようになるだろうと期待を示した。年を重ねてなおあふれるような向上心が、数々の名作を生み出すことにつながった

▼仙北市のわらび座は北斎の生涯をミュージカル化。全国公演を続けている。先日は埼玉県蕨市で、日本一の絵師を目指す北斎と周囲の多彩な人物たちが織りなすドラマを熱演。情感のこもった演技に涙する観客もいた

▼コロナ禍のため経営不振に陥り、民事再生手続きの開始決定後初の県外一般公演。北斎役の鈴木裕樹さんは、生涯自らの絵の理想を追い求めた北斎から学ぶこともあったという。「せりふや歌の質をもっと高めていきたい」と、再生への決意を込めて語った

▼飽くなき向上心を持ち続けられるか。北斎の生涯が、事業再生のヒントを示すかのようだ。

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