ローカルメディア列島リレー(29)佐藤瞳
全国のローカルメディアの作り手が、ローカルならではのメディアの形や取り組みについて綴るリレーエッセイです。紙もウェブも、看板やアートプロジェクトだって「ローカルメディア」に?! 特色あるローカルメディアの担い手たちのアイデアと奮闘の記録です。
ひとつと、ひとりのための、活動型メディア
2021年12月17日、およそ2年ぶりに開催した「穴バー」という取り組み。「穴バー」とは、月に1度、九州の生産者を1組お呼びして、その食材・地域をテーマに、料理家による視点で編集されたお料理をいただきながら、体感や共感、新しい地域コミュニティを生み出すレストランとして開催していました。
毎月続けていた取り組みでしたが、2年前の情勢を見て一時休止に。この間は、編集部一同、どんな場であるべきか再度考えた上で、今回リスタートを切ることにしました。
私たちがこの会を開き続ける理由はシンプルで、「今日の食卓の選択に、九州の人や景色におもいをはせてもらいたい」から。“穴バーで食べた、○△産のあの○△が美味しいから、これを選ぼう”と、体感したおもいをもとに暮らしが選べればと思うのです。それを、多様なひとりひとりへ、実直に提案し続けたい。
再開の1本目となった「五島のクエを味わう会」は、少ない人数でのご案内でしたが、鯛福さんの新鮮なクエに舌鼓、多々樂のシェフ粒崎さんの余すことなくクエを扱う創意工夫、五島列島の豊かさ…さまざまに楽しむお客様の表情を見ました。ひとりひとりへ、長崎にある11の有人島と52の無人島からなる五島列島という土地の魅力が伝わっているといいなと思います。
穴バーの母体である「アナバナ」というメディアは、そんなひとつと、ひとりへの課題解決に取り組む活動型メディアでありたいと考えています。アナバナ副編集長の天野加奈さんは、こう言います。「ごひいきの農家さんがいるとか、推しの魚屋さんがあるとか、そんな生活は、想像以上に楽しいものなんです。」
佐藤 瞳|ディレクター
株式会社ダイスプロジェクト・アナバナ編集部ディレクター。1991年大分県杵築市生まれ。広告デザイン事務所を経て、現在のダイスプロジェクトに所属。北部九州を中心に地域・食のテーマに携わることが多い。九州の器と古道具を集めた店「文脈」をもうすぐ始める予定。