ローカルメディア列島リレー(30)加藤翼
全国のローカルメディアの作り手が、ローカルならではのメディアの形や取り組みについて綴るリレーエッセイです。紙もウェブも、看板やアートプロジェクトだって「ローカルメディア」に?! 特色あるローカルメディアの担い手たちのアイデアと奮闘の記録です。
「林業×本屋」で、人と山の分断を越境する
普段は林業家として、山に入り木を伐(き)り、休日には移動本屋「アカゲラブックス」として、マルシェ等に出店しています。林業と本屋。両方やっていると話すと、よく驚かれます。たしかにあまり結びつかない二つです。
その背景には、大学時代に「東北食べる通信」という生産者と消費者をつなげる情報誌の発行元で修業をさせていただいた経験があります。そこで学んだことは、現代の構造では生産と消費が分断され、消費者は生産現場を想像しがたくなっていること。それが食の課題の一因になっているという視点でした。
東北での経験から、自然に近い一次産業の現場に惹かれ、林業を志すようになりましたが、ただ山仕事をするだけでなく、分断を乗り越える「越境者」であろうという姿勢を大切にしています。山や自然を身体で感じながら、それを伝え、人と山をつなぐ存在でありたいと思っています。
その一つの手段が本屋でした。もともと読書も好きですが、「本」というものがコミュニティーを生みやすいのも好きなところです。好きな本が同じだったら仲良くなりやすいし、好きな本を聞けばその人の考え方が伝わってくる。そんな人と人の媒介となる「本」は、素敵なものだなと感じます。今年は智頭町内に本屋兼読書室のオープンを目指していて、これまで以上に本を介した人と人がつながる場づくりができたらと思っています。
本屋の活動を通して、山では出会えなかった方々と出会えることは僕にとっても財産になっています。本屋としての僕を通じて知り合った方々にも、少しでも山に興味を持ってもらえたらうれしいです。
加藤 翼|林業家×本屋店主
1994年生まれ、長野県出身。京都大学総合人間学部卒。休学時に「東北食べる通信」発行元で1年間インターン。「頭で考えるばかりでなく、体で感じることも大切」だと気づく。2018年鳥取県智頭町へ移住、林業家4年目。移動本屋アカゲラブックス店主。