ローカルメディア列島リレー(31)はしもとゆうき
全国のローカルメディアの作り手が、ローカルならではのメディアの形や取り組みについて綴るリレーエッセイです。紙もウェブも、看板やアートプロジェクトだって「ローカルメディア」に?! 特色あるローカルメディアの担い手たちのアイデアと奮闘の記録です。
「体験」で伝える、小さな半径の暮らし
2009年から2年間、「くらしをみなおす」をテーマに掲げたフリーペーパー(ZINE)を地元・長崎で発行し、2011年からは長崎のタウン誌の編集に携わった。その後も特定の地域の広報物などを手がける機会が多く、私の編集活動は、「地域おこし」や「地方創生」といった文脈でとらえられがちだ。しかし実際のところ、私は「地方(ローカル)」という点に関心を持っているわけでもなければ、それを盛り上げようとも、興そうとも思っていない。そうではなく、衣・食・住に「実感(つまり、このお米は誰々さんの、とつくる人の顔を思い浮かべられるようなこと)」を得られる小さな半径での暮らし。持続可能で多様性のある、その土地の理にかなった暮らしに可能性を感じ、それを追い求めた結果、おのずと、まだ画一化の波が届ききっていない「地方」に行き着いただけ、なのだ。
2018年、その「小さな半径」の中に身を投じてみようと、私はひと昔前まで「陸の孤島」と呼ばれた西海市というまちへ移住した。高速道路も鉄道も通っていないまちは不便だが、その不便さが「身の回りのものはとりあえず自分で作ってみる」というクリエイティビティを、人々に授けているように見える。今なお息づく半自給自足的生活に、日々、感心させられるばかりだ。
そんな暮らしを、私は今「体験型民泊」というカタチで伝えようとしている。人々の営みから、明日の選択を変えうる何かをキャッチしてもらうには、たとえ一泊でも、実際に五感で味わってもらうのが一番……そう信じる私の、新しいメディアとして。
はしもとゆうき|編集者
誰もがじぶんらしく、すこやかにいきいきと「在る」世界のために。コミュニティデザインやまちづくり、教育などの視点から、出版にとどまらない編集活動を行う。長崎県西海市が中心拠点。(一社)山と海の郷さいかい代表。