北斗星(4月16日付)

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 林野庁の「森の巨人たち百選」に選ばれている藤里町の「400年ブナ」が先ごろ、人知れず倒れて雪に埋もれているのが確認された。本県側の白神山地で最も人気のある岳岱(だけだい)自然観察教育林のシンボルであり、多くの入山者のお目当てでもあった

▼幹回りが5メートル近くもあるさしもの巨樹も、今冬の大雪には耐え切れなかったようだ。近年は枝折れや腐食で樹勢も衰えていた。芽吹きの様子を見に行きたかったが、まさか横たわってしまうとは

▼初めて目にしたのは二十数年前。幹のあちこちに見えるごつごつとしたこぶは、よろいをまとったようで、いかにも頑強に見えた。ひときわ枝ぶりもよく、陽光を独り占めする主のようだった。何百年も生き抜く要素を備えていたのだろう

▼岳岱の森は50年ほど前、伐採される予定だった。地元で写真店を営んでいた鎌田孝一さんは計画を知り、営林署に何度も掛け合って保全を訴えた。原生林が残ったからこそ、400年ブナも自然の摂理に従って最期を迎えられた

▼昨年12月に91歳で他界した鎌田さんは生前、森林粋(もりりんすい)の雅号で岳岱の情景を歌に詠んだ。「黄金の光のごとくこぼれいるブナの木立の新緑(みどり)を拾う」。今年も間もなく、もえぎの季節を迎える

▼400年ブナが倒れたことで、森にはぽっかりと穴が開いた。雪が解ければ黄金の光が差し込むはずだ。朽ちゆく幹の隣で、幼いブナは競い合って空へと伸び、次の木立をつくることだろう。命のバトンが受け継がれる。

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