社説:自民の安保提言案 専守防衛、揺らぐ恐れも

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 「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と言い換えれば、国民の理解が得られるものだろうか。自民党安全保障調査会が政府の「国家安全保障戦略」など3文書改定に向けた提言を近く岸田文雄首相に提出する。「専守防衛」の根幹に関わる問題を含む。岸田政権には慎重な議論を重ねることが求められる。

 敵基地攻撃能力は自衛目的で相手領域内でのミサイル発射を阻止する能力。本県や山口県を候補地にした地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画の断念以降、代替策として保有の議論が活発化している。

 極超音速兵器や変則軌道などミサイル技術の進歩により、迎撃そのものが困難になりつつある。ただ自衛目的とはいえ、敵国の基地への攻撃が軽々に認められるはずはない。平和憲法に基づく専守防衛の理念にも反することにならないか。

 提言案は名称変更した「反撃能力」について「専守防衛の考え方の下、弾道ミサイル攻撃を含むわが国への武力攻撃に対する反撃能力を保有」とした。しかし提言案にある「専守防衛」が揺らぐ恐れがある。

 攻撃対象には「指揮統制機能等」が加えられた。敵国が攻撃に着手したことを察知すれば攻撃を受ける前に敵国の基地や指揮機能に反撃を加えることが可能になる。敵国はもちろん国際社会からも違法な先制攻撃とみなされる懸念が拭えない。

 例えば他国に届く長射程のミサイルを配備したなら、それ自体が日本の防衛政策の転換と受け取られる可能性がある。相手国の軍事動向を監視する衛星や防空レーダーの妨害などの技術も必要となる。

 提言案は防衛費について国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に、5年以内に防衛力の抜本的な強化を図るとしている。反撃能力の整備を視野に入れてのことだろう。

 これまで防衛費はGDP比1%程度を維持してきた。2%は大幅な増強だ。周辺国を巻き込んだ軍備拡張競争に発展する可能性すらある。

 ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮の度重なるミサイル発射実験などで安全保障への国民の関心が高まっている。だからといって国民の国際情勢への不安に乗じるような軍備拡張はいかがなものか。

 政府は今後、提言が提出されれば年末に予定する3文書改定の検討を本格化させる。その議論は政府・与党といった限定的な範囲ではなく、国会や公の場で野党や識者からの意見を広く受け止めていく必要がある。

 不安定化する国際情勢の中にあって、日本の将来の外交や防衛問題の根幹を左右する提言。いま一度、専守防衛の意義や外交の在り方を根本から議論することも必要だ。新型コロナウイルス対策、燃油や穀物など物価高対策もあろうが、夏の参院選では大きな争点の一つとしなくてはならない。

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