ローカルメディア列島リレー(34)通信制高校2年生:大松 珠
全国のローカルメディアの作り手が、ローカルならではのメディアの形や取り組みについて綴るリレーエッセイです。紙もウェブも、看板やアートプロジェクトだって「ローカルメディア」に?! 特色あるローカルメディアの担い手たちのアイデアと奮闘の記録です。
台所から生まれる小さなメディア
2021年の夏、山口県の離島・祝島で九か月間暮らしていた。
小さなその島で、私は島生まれの食べものが並ぶ食卓に心打たれた。野菜の向こうには育てた人の顔が、魚からはにぎやかで穏やかな海が見えてくる。大切な何かを受け取るような気持ちで、いただきますと手を合わせる。
あるとき、顔なじみの民宿を借りて、島の人に向けた一夜限りの食堂を開いた。私が食卓で受け取った気持ちを、台所から届けてみたいと思った。
当日の朝、エプロンをつけて台所に立つ。野菜の波長に寄り添うように、対話するように。土から人へ、人から人へとめぐっていく、私の「届ける」作業はもうはじまっている。
下ごしらえの合間に、空の鍋を持って海へ走る。漁師さんが目の前で二匹のタコを締め、そこに入れてくれる。重くなった鍋を手に、今度は早歩きで帰る。
たった一分前まで息をしていたタコに塩を振りかける。その途端、二匹は苦しそうにもがき、足を硬く緊張させる。じかに感じた命の強さに、心臓がドクドクと音を立てる。深呼吸して息を整え、臭みを取るため塩でもむ。漁師さんに教わったとおり、吸盤ひとつひとつまで丁寧にぬめりを取る。
エネルギーと向き合うにはエネルギーがいる。海の恵みが食卓に並ぶ、その尊さをまたひとつ実感した。
届ける相手を思いながら、心を込めて手を動かす。料理と手紙は似ているかもしれない。
食べに来てくれる人には、食べものが生まれてから食卓に並ぶまでの道のりも伝えたい。
ひとりひとりの「いただきます」が、より豊かになるように。
大松 珠|通信制高校2年生
2005年生まれ。福岡県糸島市にて育つ。フリースクール産の森学舎を第一期生として卒業後、「遊びや暮らしの中にある学び」がしたくて山口県の離島・祝島に滞在。現在、今春から始動した『高校生がつくる水俣食べる通信』編集部の一員として活動中。