社説:安倍元首相銃撃 許されぬ言論へのテロ
安倍晋三元首相が奈良市で参院選の街頭演説中、凶弾に倒れた。その突然の逝去を心より悼みたい。政治家の言論を暴力によって封じようとするこのようなテロ行為を断じて許すことはできない。
岸田文雄首相は「民主主義の根幹である選挙中の卑劣な蛮行」と強く非難した。与野党の党首らが「暴力による言論封殺は許せない」「テロ行為は民主主義に対する挑戦」と声をそろえたのは当然だ。
容疑者の身柄はすぐに現場で取り押さえられた。このような暴力を二度と繰り返させてはならない。動機や事件の背景、銃撃に使用されたとみられる凶器について捜査を急ぎ、徹底究明する必要がある。
結果的に近距離からの発砲を阻止できなかった。安倍氏の警護に隙はなかったか。警察当局は要人の警備態勢を急ぎ再点検しなくてはならない。その上で再発を防ぐため万全の態勢を整えたい。
残念なことに日本で政治家がテロ行為によって倒れた例は珍しくない。戦前ほどではないが、戦後も繰り返されている。
戦前では1921年に原敬首相が刺殺され、30年に浜口雄幸首相が銃で撃たれた。32年の五・一五事件では武装した海軍の青年将校らにより犬養毅首相が殺害された。さらに36年の二・二六事件でも首相経験のある閣僚ら多くの血が流された。
戦後では60年、安倍氏の祖父でもある岸信介首相が官邸で脚を刺され重傷。同年に社会党の浅沼稲次郎委員長が演説中、少年に短刀で刺され死亡した。その後も75年に三木武夫首相、92年に金丸信自民党副総裁、94年に細川護熙前首相が殴られたり、銃撃されたりする事件があった。2000年代以降も衆院議員や長崎市長が刃物や銃で襲われ亡くなっている。
戦後も政治家が襲われる事件がこれほどまで多発している。民主主義が根付いているはずの国であまりに残念だが、これが現実だ。
亡くなった安倍氏は06年に52歳の若さで戦後最年少の首相に就任したが、健康状態の悪化で辞任。12年に再登板し、在職期間の合計で歴代1位となる長期政権を20年まで担った。
豊富な外交経験があり、まだ67歳の若さだった。首相経験者として後進の支えとしての役割も期待されていた。
選挙では候補者や演説する弁士と選挙民との距離をなるべく縮めたいという意識が働くのは当たり前だ。しかし今回のようなテロ行為によって、安全のため一定距離を取らざるを得なくなるのではないか。今後の選挙の姿を変える契機になることもあるかもしれない。
戦前に政治家が犠牲になった事件は日本が戦争に向かう一因になったともいわれる。民主主義を脅かすような行為は断固許さないという姿勢を堅持する大切さを改めて胸に刻みたい。
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