社説:県博入館者400万人 生涯学習支える拠点に
県立博物館(秋田市金足)の入館者が400万人を突破した。1975年の開館から47年。歴史、民俗、生物など8部門を擁する総合博物館として県内文化施設の中心的役割を果たしてきた。引き続き郷土資料の収集保存や調査研究といった取り組みに加え、県民の生涯学習を支える「知の拠点」としての魅力を磨き上げてほしい。
入館者は開館初年度に24万人を数えたが、徐々に減少。一時4万人弱まで落ち込んだ。展示室などを改修した2004年度は16万人まで盛り返し、新型コロナウイルス禍前の数年間は10万人前後で推移。コロナ禍で5万人台に半減した20、21年度を除けば回復基調にある。
同館が力を入れている取り組みの一つが、県内各地に収蔵資料を運び出し、見てもらう「出張展示」だ。14年度にまとめた中期ビジョンは「打って出る博物館」を掲げた。同年度から試行的に実施し、翌15年度から本格化させた。
県央部が半数超を占めていた入館者の実態を踏まえ、県北や県南で積極的に開催。14~21年度の入館者72万7081人のうち出張展示の来場者は14万6千人と全体の2割。県内全域へ同館を浸透させる活動といえる。
同館は現在、約19万点の資料を収蔵。ただ館内展示は1万点に過ぎない。眠っている資料の有効活用という点からも出張展示は有意義だろう。
博物館に求められる役割は多様化、高度化している。来年4月施行の改正博物館法は地域振興への貢献を視野に、他施設との連携強化を盛り込んだ。
出張展示はこうした方向性にも合致する。学芸員が出向いて解説する出前講座、校外学習の場としてのセカンドスクールなどの活動と組み合わせ、人と人、過去と未来、地域と住民などをつなぐ「文化の結節点」の役割を今後も担ってほしい。
デジタルアーカイブなど収蔵と展示の新しい形を探ることも時代の要請だ。改正法も資料のデジタル保存を努力義務としている。同館は収蔵資料をデジタルデータで公開する取り組みを進めており、今後も順次拡大する方針だ。本年度はホームページのリニューアルも予定する。
コロナとの共生という点からも、オンラインで活用できるデジタル化を推進する必要がある。人員や予算など課題はあるだろうが、解説や検索機能の充実を図るべきだ。
県内では少子高齢化が進み、地域で保存・継承されてきたさまざまな文化の伝承が難しくなっている。県立博物館条例第1条「郷土の自然と人文に関する認識を深め、県民の学術および文化の発展に寄与する」に照らせば、その果たすべき役割は一層増している。
3年後には開館50年の節目を迎える。収蔵資料の価値を掘り下げて発信し、多くの県民の知的好奇心に応えるような博物館を目指してもらいたい。